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一人娘の節は、兄弟が欲しくてしかたなかった。
自分家の前で倒れた母親に取りすがって泣いているナツを見た時、この子を守ってあげたいと思った。
本当の姉妹になりたいと節はいつも思っていたのだった。
「孝一があなたと一緒になりたいと言った時、夢が叶ったと思ったくらいよ」
目を細めながら節が言う。
「ありがとう八重子さん、本当に……」
節の目には涙が溢れていた。
「これでいい。これで孝一も心置きなくお国のために戦える。頼むぞ孝一、戦争に行きたくても行けない父さんの為にも」
久は若い時に足を痛め、兵役を免れていた。
久はそのことをひどく気にしていた。
健全な若者が次々と出兵するのを地団駄を踏みながら見送ってきた 。
出来ることなら自分も行きたいと願った。
世間の目の中には厳しいものもあった。非国民とさえ呼ぶ者もいた。
非国民。
それは不満を言わせない為の標語的な意味合いを持つ。
戦争に協力しない者を愚弄させる都合の良い言葉だったのだ。
そんな中傷の中、久は耐えに耐えてきたのだった。
だから必死に、五体満足で産まれてきた長男を立派に育て上げたのだ。
だから余計に甲種合格の息子は誇りだった。
この度の出兵は、至上の喜びでもあったのだ。
戦局は我国に於て、次第に不利になっていく。
でもそれを知らされていない国民の大半は、御国のための辛い別れを、名誉なこととして受け入れるしかなかったのだった。
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