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部室の扉が開かれたのはその時だった。
眠たそうな目を擦りながら部室に入ってきたのは、リュックサックを背負った女の子だった。
「あら、春浦さん。今日は遅かったのね」
「日直というミッションがありましてー」
春浦美咲は何故かふらふらとした足取りで僕の隣へとやってきた。ショートヘアの頭の頂点付近から伸びた栗色のアホ毛が、足を進める度にひょこひょこと揺れる。
そのままパイプ椅子を引いて、ドサリと腰を下ろした。
そしてリュックサックを肩から下ろすと、中からスーパーのビニール袋を取り出した。
「ミッションでスタミナを減らしてしまったので、エネルギーをチャージしなければ」
一人でブツブツと言いながらビニール袋から取り出したのは、二つの缶詰だった。一つには鯖の味噌煮と書いてあり、もう一つには焼き鳥と書いてあった。
「相変わらず缶詰持ち歩いているんだな」
「もちろん。……缶詰は人類が生み出した叡智なのですよ、遠坂くん」
春浦は僕の方を見ずに、芝居がかった口調で言った。
「まあ間違ってはいない、のか?」
食品を長持ちさせる意味では素晴らしい発明だと言えるだろうけれど、果たして叡智とまで言ってしまってもいいのだろうか。
「まずは鯖の味噌煮から攻略しましょうかね」
感情が顔にあまり出ないからわかりにくいが、たぶん嬉しそうに缶の蓋を開けた。身体を小さく左右に揺らしている。
「攻略ってなんだよ」
「なんとなく、そっちの方がかっこいい」
なにを言っているのだろうか。僕には理解できそうになかった。
「そのなんだ、僕にはわからないな」
「まだまだ修行が足りませんな」
「何の修行だよ」
「さあ?」
「……さあって」
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