第一章

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いつも思うのだけれど、春浦という女子高校生は変わっている。 思ったことを考えなしにそのまま言ってしまうのか、変わったことを言うことがある。訊ねてみてもまた変わったことを言ってきたり、今のように自分でもわからないという意思表示をしたりする。 それだけはなく、缶詰が好きだというところも変わっていると言える。 昼食は弁当箱に白米だけを入れて持ってきていて、おかずは缶詰食品で済ましているらしい。昼食の分だけではなく、おやつとしての分も学校に持ってきていると、少し前に聞いた。 ついでに言えば、これは変わっていることではないけれど、表情が乏しいために何を考えているのかわからない。というところもある。 笑った顔も怒った顔も。泣いた顔も楽しそうな顔も。僕は一度も見たことがない。 無表情で感情を読み取れない春浦ではあるが、不思議とコミュニケーションはとりやすかったりする。 感情が読み取れない人間は何故か近寄り辛いところがある。怖いと思う場合もあるし、何よりどう接していいのかわからないからだ。 けれど、春浦の場合は違った。なんと言うべきか。近寄りたいと思える雰囲気を醸し出しているというか、なんというか。 子どもっぽい容姿をしているからだろうか。守ってあげたいとか、可愛がりたいとか。他人の心をそういう想いで満たしてしまう何かを持っている。そう言った方がわかりやすいかもしれない。 そうして話しかけてみると、変わったことは言うけれど、冗談も交えながら上手いこと言葉を返してくれる。その話し方がまた放っておけない想いにさせてもくれる。春浦の才能と言ってもいいのかもしれない。 そういうこともあって、個人的にはコミュニケーションがとりやすい相手だと感じている。
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