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今までいろいろとやってみて、その全部ができなかった。
だからどこかで不安に感じているのかもしれない。今度もダメなのではないか、そう感じているのかもしれない。
そのせいだろうか。とにかくやってみようとは思えない。
「何か思うところでも?」
「いや、まあ……。特に何もないけど」
春浦は僕の方をじっと見つめてきた。
「どうした?」
しばらく見つめてきていたが、何も言わず小さく首を横に振った。
少し不思議に思ったけれど、何もないというのだから気にしないことにする。
「そういえば。今日、棚林先輩と有村は来ないのか?」
壁に設置された時計をチラリと見ると、部活開始時間を十分ほど超えていた。
「部長はいつものやつよ」
「あー、なるほどね」
文芸部の部長である棚林凛花は、彼女の専門である絵画に対して神経質だ。いろいろなこだわりのような物を持っているとでも言うのだろうか。
本人も面倒な性格だと自覚しているようで、時々嫌になると言っていた。けれど、そのこだわりを無視してしまうと描けないらしい。
そのこだわりの中に、その日に思い浮かんだ場所で描かないといけないというものがある。それは毎回バラバラで、しかも思い浮かんだ場所でないと手が止まってしまうらしい。
だから棚林先輩が部室に来ないというのは珍しくも何ともないのだ。
「有村君は風邪で来れないそうよ」
「……本当に風邪か?」
有村深雪という人間は適当な奴だ。髪はいつも寝癖がついているし、鞄の中はグチャグチャだし、まあいいやが口癖だし。見えるところのほとんどが適当に感じられる。
ただ服装だけは適当に選んでいる訳ではないらしい。何でも自分の魅力を充分に発揮させるためには、自分の外見やキャラに合った格好をしなければならないのだとか。
よくわからないけれど、だったら寝癖も直せよと思ったりする。
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