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そもそも向こうではどうなっているのだろうか。
僕の身体は突然消えたのだろうか。だとしたら周りにはどう見えた? 僕のことを捜している? 心配、してくれているのだろうか。なら、戻ったら謝らないと。
……僕は、戻れるのだろうか。
みんながいるあの時代へ、あの場所へ。あの文芸部へ、戻れるのだろうか。
もしも戻れなかったら、僕はどうなってしまうのだろう。
言い知れない不安が背中を這い登ってくる。冷たいその手は僕の身体中を触れて回る。まるで不安が身体を覆っていくかのようだった。
その不安を払拭する方法を、僕は持ち得ていなかった。
「僕は、これからどうなってしまうんですかね」
呟くように口にした。
「……残念だけど、今は考えてもわからないと思うよ。少なくとも私たち二人にはね」
「そうですよね。……すいません」
「でも自分がこれからどうなりたいのか、それを考えることは大切だよ。それを信じることも、ね」
「どういう意味、ですか?」
「たとえば、元の時代に帰りたいとか。だとしたら、絶対に帰る方法はあるんだって信じないとダメ、っていうこと」
帰りたい。
そうだ、僕は確かに帰りたい。でも帰れるのかはまだわからない。
そんな状況で、絶対に帰れるんだと信じるだなんて、できるはずがない。そんなことができるのなら、こんなに不安を感じることなどない。
「ありがとうございます。そうしてみます」
だけど。そう思ってはいても、それを口にすることはしなかった。
春浦先輩は好意で言ってくれているのだ。僕のためを思って言ってくれている。
実際は不安を払拭なんてできていないけれど、僕は嘘を付いた。奇しくも、春浦美咲にしたように。
人の好意を無下にすることはできない。してはいけない。
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