第二章

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チャイムを鳴らしたところで、きっとそれどころではないだろう。 結局、玄関の前で待つことにした。 オレンジ色だった空はすでになく、夜の闇が近づいている。春浦宅を見ると、二階の部屋に明かりが点っていた。 春浦は大丈夫なのだろうか。 そう思った時だった。ドカドカと、走り回るような音が聞こえてきた。 気になって玄関に視線をやると、突然ドアが勢いよく開け放たれる。姿を見せたのは、一人少女をおぶった春浦先輩だった。 「ど、どうしたんですか!?」 慌てて駆け寄ると、焦った表情の先輩と視線が重なる。 「ね、熱が」 振り返るような仕草をする先輩。彼女の背中に視線を向けると、目を瞑り顔を真っ赤にさせた少女がいた。 春浦美咲。小学生の彼女だと察する。 僕の知る彼女とはやはり少し違っていたけれど、その顔は紛れもなく春浦美咲だった。 「ちょっと触るぞ」 意識が曖昧そうな春浦に小声で断りを入れると、そっとその額に手を当てる。思っていた以上に額は熱を帯びていた。 やばい。直感的にそう思った。 「病院に?」 今度は先輩に話しかける。 「う、うん」 「僕が背負いますよ。たぶん、先輩より力あるので」 「でも」 「先輩は荷物持ってください」 半ば無理やり春浦を抱え、背中におぶった。代わりに先輩に荷物を渡す。 「保健証は持ってます?」 「も、持ってるよ」 「じゃあ行きましょう。……ここからだと総合病院が近いか」 僕は先輩の顔を一度だけ確認すると、走り出した。 「ま、待って!」 そう言ってついてくる先輩の気配を感じた。 ☆ 廊下の壁にもたれかかって、病室の扉を見つめていた。 高熱ではあったけれど、特に重い病気にかかっているわけではない。春浦にくだされた診断を聞いて、とりあえず僕も先輩も安堵した。
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