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その後、春浦姉妹の母親が駆けつけ、今は三人で病室にいる。
僕は部外者なため、外で待つことにした。
そうして何分かが経っている。
先ほど気が付いたのだけれど、僕のスマホの時計は不自然に止まっていて、ついでに言えばネットにも繋がらない状態だった。だからその場では詳しい時刻を知ることはできない。
この時代に来て、どれくらい経ったのか。それを知ることも、今が何時なのかを知ることもできない。そして三人が病室に入って正確には何分経ったかも。
何の気もなしに天井を見上げる。真っ白な照明の明かりが目に入った。
ちょうどそのタイミングで扉の開く音がした。
視線を前に戻すと、春浦先輩と目が合った。
「ごめんね、遠坂君」
開口一番、先輩はそう言った。
「いえ……。はるう、いや妹さんはどうですか?」
「うん、今はぐっすり眠ってるよ」
「よかったです」
先輩はゆっくりとした動作で、僕の傍まで移動してきた。
「……ありがとう」
そして、静かにそう言った。
「え?」
「いろいろ、助けてくれて」
「いや、お礼なんていいですよ。……妹さんは僕にとっても大切な友達ですから。まあ、この時代のあいつは僕のこと知らないと思いますけど」
「遠坂君は、いい人だね。優しい」
「そんなんじゃないですよ」
しばらく、沈黙が続く。
何を言えばいいのかわからなかったし、おそらく先輩もそうだった。
「……傍にいてあげてください」
やがて、口から出たのはそんなものだった。
「でも、遠坂君が」
「僕のことは気にしないでください。……じゃあ、僕はこれで」
行くあては結局決まらなかったけれど、まあなんとかなるだろう。春浦のこともあったし、あまり頼りたくはないし。
「顔見ていく?」
その場をあとにしようとしたところで、先輩は僕を呼び止めた。
「いや、いいです。あんまり関わらない方がいいんですよね? 僕はいいですけど、先輩や春浦の未来が変わっちゃうのは、なんとなく嫌ですから」
今度こそ、僕は歩き出す。
廊下の窓から見える空には、微かに月明かりの気配がした。
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