第二章

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☆ 病院を出た瞬間、眩暈がした。タイムスリップする前と同じ、あの眩暈だった。 立っていられず、思わずその場にしゃがみ込んでしまう。 しかしやはりと言うべきか、それはすぐに落ち着いていく。 同じだ、あの時と。ということは、この後に起こることは……。 プツリと、電源が落ちたテレビのように、僕の目の前は黒く染まった。 ☆ 気が付くと、僕は椅子に座っていた。 目に映ったのは、僕を見つめる二つの瞳だった。高校生の春浦美咲の目だった。 そう、そこには確かに成長した春浦がいたのだ。 僕は只々、その顔を見つめることしかできないでいた。 「眩暈が、したですか?」 どうして、春浦が眩暈のことを知っているんだ? 「な、なんで……」 「なんでって……遠坂君が言ったですよ? 眩暈がって」 僕が言った? 記憶を遡ってみる。そうして、やっと思い出した。 確かにタイムスリップする前に口にした。僕にとっては何時間前のことだったから、すぐには思い出せなかった。 ……ん? だとすると、僕はタイムスリップする前の時間に、戻ってきたということか。 「あ」 その時になってやっと現状を理解した。 戻ってきたのだ、元の時代へ。しかも時間が元のままだ。 ……でも、あれは本当にタイムスリップだったのか? 白昼夢の可能性は? 「なあ、春浦」 「ん? なんです?」 「お前、小さい頃に高熱を出して、入院したことってあるか?」 「ありますけど……どうしてです?」 「いや、どうというわけでもないんだが。なんとなく聞いてみただけだ。……悪いな、変なこと聞いて」 「そうですか?」 しばらく僕をじっと見つめてきた春浦だったが、そういえばと何かを思い出すように呟いた。 「あの時、知らない男の人に背負われてたです」 「え?」 「おねえ……家族に聞いたら、通りすがりの親切な人としか教えてくれなかったです」 「そう、か」 今一瞬、何か言いかけたような。それに、その瞬間だけでいつもより無表情になったような。
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