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☆
病院を出た瞬間、眩暈がした。タイムスリップする前と同じ、あの眩暈だった。
立っていられず、思わずその場にしゃがみ込んでしまう。
しかしやはりと言うべきか、それはすぐに落ち着いていく。
同じだ、あの時と。ということは、この後に起こることは……。
プツリと、電源が落ちたテレビのように、僕の目の前は黒く染まった。
☆
気が付くと、僕は椅子に座っていた。
目に映ったのは、僕を見つめる二つの瞳だった。高校生の春浦美咲の目だった。
そう、そこには確かに成長した春浦がいたのだ。
僕は只々、その顔を見つめることしかできないでいた。
「眩暈が、したですか?」
どうして、春浦が眩暈のことを知っているんだ?
「な、なんで……」
「なんでって……遠坂君が言ったですよ? 眩暈がって」
僕が言った?
記憶を遡ってみる。そうして、やっと思い出した。
確かにタイムスリップする前に口にした。僕にとっては何時間前のことだったから、すぐには思い出せなかった。
……ん? だとすると、僕はタイムスリップする前の時間に、戻ってきたということか。
「あ」
その時になってやっと現状を理解した。
戻ってきたのだ、元の時代へ。しかも時間が元のままだ。
……でも、あれは本当にタイムスリップだったのか? 白昼夢の可能性は?
「なあ、春浦」
「ん? なんです?」
「お前、小さい頃に高熱を出して、入院したことってあるか?」
「ありますけど……どうしてです?」
「いや、どうというわけでもないんだが。なんとなく聞いてみただけだ。……悪いな、変なこと聞いて」
「そうですか?」
しばらく僕をじっと見つめてきた春浦だったが、そういえばと何かを思い出すように呟いた。
「あの時、知らない男の人に背負われてたです」
「え?」
「おねえ……家族に聞いたら、通りすがりの親切な人としか教えてくれなかったです」
「そう、か」
今一瞬、何か言いかけたような。それに、その瞬間だけでいつもより無表情になったような。
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