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気のせいかもしれないけれど。
……きっと、春浦のいう知らない男とは僕のことだろう。そして彼女の姉、春浦澪は僕のことをごまかしてくれたのだろう。
となると、あのタイムスリップは現実だったということか。
確証は持てないけれど、たぶん、きっとそうなのだろう。
もう戻れないのかもしれないなんて不安に思っていたけれど、実際には戻ってこられたということに一先ず安心できた。そのせいか、なんとか冷静になれた。
「まあいいんじゃないか? わからなくても」
「でも、お礼くらいは言いたかったです」
「僕が言うのもなんだが、きっとその人は礼なんていらないと思ってるんじゃないか?」
実際、思っている。
「それでも、です」
春浦先輩は僕のことをいい人だと言った。けれど、そういう言葉は春浦のような人間に向けるべきだろう。
僕を見つめてくる彼女姿を見て、そんなことを思う。
顔も知らない相手に対しても、こうやって感謝できるのだから。
「そうか。いつか会えるといいな」
「うん、そうですね」
もうすでに会っているかもしれないということは言わない。信じてもらえるわけがないし、言ってしまうほどバカではないつもりだ。バカには変わりがないのだけれど。
……そういえば。春浦のお姉さんと出会ったのは、実際の時間的には五年前になるわけか。先輩は元気だろうか。
「春浦ってお姉さんいるだろ?」
「……え」
「いや、偶然会ったことがあってさ。だいぶ前なんだが。元気か?」
「……、」
突然、さっきの完全な無表情になって、黙ってしまう春浦。
どうしたのだろうか。
けれど、訊ねようとしたところで元の春浦に戻ってしまう。
「勘違い、じゃないです? 私にはお姉ちゃんなんていないです」
何を、言っているんだ?
確かに僕はあの人に出会った。幼い春浦にだって……。
それとも、やっぱり白昼夢だったとでも言うのか?
治まっていた混乱が再びやってくる。
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