第二章

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気のせいかもしれないけれど。 ……きっと、春浦のいう知らない男とは僕のことだろう。そして彼女の姉、春浦澪は僕のことをごまかしてくれたのだろう。 となると、あのタイムスリップは現実だったということか。 確証は持てないけれど、たぶん、きっとそうなのだろう。 もう戻れないのかもしれないなんて不安に思っていたけれど、実際には戻ってこられたということに一先ず安心できた。そのせいか、なんとか冷静になれた。 「まあいいんじゃないか? わからなくても」 「でも、お礼くらいは言いたかったです」 「僕が言うのもなんだが、きっとその人は礼なんていらないと思ってるんじゃないか?」 実際、思っている。 「それでも、です」 春浦先輩は僕のことをいい人だと言った。けれど、そういう言葉は春浦のような人間に向けるべきだろう。 僕を見つめてくる彼女姿を見て、そんなことを思う。 顔も知らない相手に対しても、こうやって感謝できるのだから。 「そうか。いつか会えるといいな」 「うん、そうですね」 もうすでに会っているかもしれないということは言わない。信じてもらえるわけがないし、言ってしまうほどバカではないつもりだ。バカには変わりがないのだけれど。 ……そういえば。春浦のお姉さんと出会ったのは、実際の時間的には五年前になるわけか。先輩は元気だろうか。 「春浦ってお姉さんいるだろ?」 「……え」 「いや、偶然会ったことがあってさ。だいぶ前なんだが。元気か?」 「……、」 突然、さっきの完全な無表情になって、黙ってしまう春浦。 どうしたのだろうか。 けれど、訊ねようとしたところで元の春浦に戻ってしまう。 「勘違い、じゃないです? 私にはお姉ちゃんなんていないです」 何を、言っているんだ? 確かに僕はあの人に出会った。幼い春浦にだって……。 それとも、やっぱり白昼夢だったとでも言うのか? 治まっていた混乱が再びやってくる。
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