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あたりまえだ。悪いことなんてしていないのに、責めるような目を向けられたら誰だって怒る。
僕は本当に情けない。
「……悪い。動揺して、つい。ごめん」
「別にいいわ。……あたしも、怒って悪かったわ」
「いや、怒るのは当然だ」
気まずい雰囲気が流れる。
しばらくして、どちらからというわけでもなく歩き出した。
「もしかしたら、春浦さんは思い出したくないのかもしれないわね」
呟くように、彼女は口にした。
僕は、何も答えられなかった。
☆
学校からの帰り道。僕は公園のベンチに座り、ぼんやりと夕焼け色の空を眺めていた。
頭に浮かんでくるのは、春浦先輩の顔ばかり。そのほとんどが笑顔だった。
どうして。そんな言葉が何度もちらつく。
自殺するような人には見えなかった、というのは僕の勝手な印象でしかない。だけど、やっぱり信じたくはなかった。
だからだろうか。悲しいという気持ちはない。それどころか、いやに冷静な自分がいた。
そんな自分を殴りつけてやりたいと思うのに、思うだけで怒りの感情なんて湧いてこない。
ただ空虚な気持ちだけが心を満たしていて、どうすることもせずに呆然としていた。
「やあ、遠坂君」
突然かけられた声に、空から視線を外す。
そこにいたのは少女のような格好をした少年。
デニムのホットパンツに黒のニーソックス。そしてスポーツシューズ。
上は襟の広い柄付の白いTシャツと、その中にタンクトップでも着ているのか、左右の肩らへんに紐ようなものが見えた。
「……有村」
「こんなところでなにやってんのさ」
そう言って、有村深雪は僕の隣に座った。
「お前こそ、風邪じゃなかったのか」
「んー? ああ、今日はそう言ったんだったか」
「やっぱりサボりかよ」
「そうとも言う」
「そうとしか言えねえよ」
沈黙が流れる。
聞こえるのは風邪によって揺れる木の葉が擦れる微かな音。そして、遠くに聞こえるカラスたちの鳴き声だけ。
「なんだか元気がないようだけれど、どうかしたかい?」
しばらくして、沈黙を破ったのは有村だった。
「……いや、なんでもない」
「そっか。てっきり、美咲ちゃんのお姉ちゃんのことで落ち込んでいるのかと」
……。
こいつは今、何と言った?
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