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柔らかいくせ毛の髪。 ほどくほどに、俺の手にまとわりつく。 『おろした方がいいのに』 ある時そう言ったら 『鷹臣くんの好みならずっとそうしててあげたいけど、私、美容師だからさ。お客様から見られる立場でしょ?色々アレンジしないと』 照れた顔をして、仕事を優先させた。 美容師というものは、ただ、客の髪をカットしたりカラーしたりしていればいいものではないらしい。 『大変だね』 『うん。でも、好きなことが仕事だから』 何気なく言った言葉に答えたつぐみちゃんの顔は、羨ましくなるほど充実感に満ちていた。 楽しく仕事できているなら、いいと思う。 いや、 仕事が、楽しいならいいと思う。 「……」 『甲斐くん』か。 その名前を頭の中で復唱し、ここ最近、つぐみちゃんの口からよく聞くことを思い出した。
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