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ベッドサイド・ステーション
沈んでいく、甘ったるい痺れに溺れて、漂うは、ベッド・サイドの駅 。エーテルに満たされた空調の泡(あぶく)、の水音を聴いて、ぐるぐると遠ざかっていく、きいんと耳の鳴るような静寂に溺れ、溶けそうなほどに滑らかな真っ暗闇に包まれた。ふわついた意識の中でアメジストの機械クジラに乗った。深い色をしていた。とても大きいらしい。そう、だって瞳だけで見えないものね。
海のシャンデリアが浅い水面で輝いていた。まだ、夜みたいだ。ぼくは、ふと、プランクトンを食べて、青の底に沈んでいきたい。って、思った。ぼくはクジラじゃないのにな、食べても、光れないのにな。背びれに反射した、アクアマリン・ライト。ああ、まだ息が出来ない。浅すぎる、から。吸い込めない。珊瑚のお城は打ち上げらてしまった、何処かで、水槽の隠れ家になってたかな。ああ、とうに、ベッド・サイドは随分遠くに行ったものね。ぼくも昨日までは。
藻の霧の向こうに、ちかちかと燃える、炎、が見えたような。誰の灯りだろう?そうだ、淡い瞬き、薄汚れた結晶、死んでしまった貝殻ののなかで 泡に透過した灯火みたいに、ビー玉に閉じ込めたキャンドルみたいになりたいと、思っていたのだった。ずっと。一つだけ、この身体を全て燃やし尽くしたい。マッチ棒の先じゃ足りないかな。珊瑚の火は、消えてしまった。
海の色に染め上げた、彩り。エメラルド・ブルーは嫌い、夜空に列車を浮かべて、星空にクラゲを飛ばせて、ギャラクシー・ブルーの底でプランクトンを食べる。小さな命は口の中で弾けて、ぼくの憂鬱に、退屈、嘘に、怠惰になる。それはふざけたような命のブルー。
波の音を聴いた。クジラの体温に抱かれたかった。ベッド・サイドきっと忘れた?
あの駅には、もう帰れない。
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