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雨、列車にて
僕は列車に乗って流れていく景色を見ていた。水滴が窓を這って、そして消えた。街の彩度は低く、そして蒼く、まるで海の底に沈んでいるみたいだった。
混雑時で、周りはとても煩かったけど、ヘッドフォンをしてお気に入りの音楽を聴いていたから、あまり気にならなかった。
目を閉じたら、溺れてしまいそう。
雨の匂い。
紫陽花の花。
僕はさかな。
一匹の、しがないさかな。
誰も僕を見ない、僕も誰も見ない。
だって此処は海の底だもの。暗すぎて見えないものね。列車はゆらゆら、がたがたと揺れた。
窓を這う水滴が、増していく。街の光は赤く、蒼く、滲む。頭にのしかかるような重圧に、微睡んでいく。黒く、黒く、黒く。
真っ黒に色が混ざる。踏切が叫ぶ。鮮烈な赤が視界を、彩度の低い街を壊していく。
崩れていく僕の街、
渦巻くように、
霞んでいくみたい。
大きく揺れた。青臭い潮の香り。遠くの悲鳴が、反響する。
僕は、真っ赤なさかなになった。
みんな、
さかなになった、の、だって。
サイレンが響く。
僕と、真っ赤なさかなたち。
僕は、君の、顔を思い出していた。
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