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頭部の無い遺体。その頭部は何かに『喰わる』様な損傷状況。
これはどう考えても異常だ。
警察の上層部でも、既にマスコミに対しての情報規制がかけられているだろう。
真人は上の対応をほんの一瞬考えたが、動き出す次の瞬間には頭からなくなった。
現場周辺の聞き込み。まず刑事がするのはそれだ。少なくとも、父親と平次はそれを始めにしていた。
遺体があったのは海浜公園。昼間はそれなりに賑わうが、夜は夜景が見えるでもないので人気はないはずだ。しかし、夜間のライトの量はそれなりに多いのでそこまで暗いということはないだろう。
こういう時は、公園の住人に話を聞くのが一番はやい。
真人は、ダンボールとビニールシートだけでつくられたようなテントが多数ある場所を目指した。
平次がいた。
こういう捜査方法を平次に伝授されたのだ。居て当たり前な気もした。
「お前は、すぐに単独行動かあ?」
平次の呆れたような怒鳴り声が真人に向けられる。平次の相方の刑事は真人の方を見ようともしない。
「はいはい、平さん。そんなに興奮したら、また血圧あがりますよ。それにこちらの方は?」
真人は自分に向けられた怒鳴り声を軽く受け流すと、平次が話を聞いていた人物に目を移す。
初老の男性で、公園で生活しているのだろうが、その身なりはこざっぱりしている。黒のスーツに丸眼鏡。眼鏡の奥の瞳には高い教養の光が見える。長くなった白髪を後ろで結い、野放図に生えた髭が、公園での暮らしを反映しているようだった。
「そうですよ、平次さん。それに彼は若いのだから。」
男性は柔和そうな声で平次を落ち着かせると、自己紹介を始めた。
「私は吉野隆也(よしのたかや)といいます。まぁ、今はこの公園で自由人を気取って生活しています。」
そういうと、吉野は真人に向かい軽く頭を下げた。真人もつられるように頭をさげると、胸ポケットから警察手帳をとりだし、吉野に見せながら自らも名乗った。
「私は警視庁捜査一課の篁といいます。」
それを聞くと、平次の相方が軽く真人を睨みつける。(お前は捜査一課じゃない。)相手の視線がそう物語っている。
真人はこの手の視線には馴れている。というか、視線を送るのはまだ真人の存在を無視しきれていない。他の刑事は視線すら送らないだろう。真人はそんな視線や態度を気にするでもなく、吉野に話を聞いていく。
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