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連山に囲われた芦ノ湖は、鉛色の光を帯びて箱根山から流れる木枯らしによって波紋を描いていた。
右には富士山が荘厳な姿でそびえる。靄がかかった視界といえど、東京の富士見処スポットなんかよりずっと、美しい姿を堪能できる。
大きく息を吸い込み自然を感じる。
キンと、痛みを伴う身体の奥を吹き抜ける風は、冷たく心地よい。
隣には、厚い毛布にくるまり、すやすやと寝息を立てる愛息子。
黒いベビーカーを押す黒いダッフルコート姿の彼が、同じようにこの情景を味わっている。
少し年の離れた夫婦。
そんな風に、周りからは見えるかもしれない。
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