視界の外

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 私の家庭は世間一般でいう中の上辺りの裕福さで、これまで特にお金には苦労した経験はありません。しかし子供は私一人とはいえ、大学の授業料は家計に大きな負担を与えていたようです。更には実家から大学が遠いため一人暮らし。私はその事に少なからず後ろめたさを感じていたのと、生活費を稼ぐため、ひいては自分のお小遣いほしさの為に、大学の仲介を通してアルバイトを探していました。  様々なアルバイトの求人の中、私が目に止めたのは家庭教師のアルバイトでした。 小学生五年生の男子児童に教科全般を教えるという内容で、授業は週一回。 随分と時間に融通が利き、学業への影響も軽そう。そして家庭教師にしては割高の時給と、教育系の学生は給与二割増の文字。さらに遅くなった場合は夕飯付き。 動機としてはあまり褒められた物ではありませんが、一人暮らしの貧乏学生で教育学部だった私にこの求人を受けない理由はありません。すぐに私はその求人をファイルから取り出し、その場で登録を済ませました。条件の良さから倍率が高いのではと心配しましたが、翌日にはあっさりと採用の連絡が来て驚いたのを覚えています。  家庭教師先のお宅は閑静な住宅街の離れにある、ファミリードラマで見るような、二階建ての一軒家でした。まず初日は顔みせという事らしく、雇い主のご両親にご挨拶をして、息子くん(仮にシンタくんとします)とレクリエーションのような会話をした後、晩御飯をご一緒させていただきました。少し旦那さんが奥さんの尻に敷かれていそうでしたが、夫婦関係は良好そうで、私は暖かく歓迎して貰えました。シンタくんは歳の割にマセた話題が好みのようでしたが、受け答えから頭の回転は早いようで、教えがいが有りそうでした。そしてなにより、奥さんの料理は箸を止める事を忘れる程の美味しさ。これは初めてのバイトにしては素晴らしい職場に出会えたのかも、そうやって浮かれていたのを覚えています。  それに初めて気がついたのは、家庭教師を初めてから3ヶ月程経ってからでした。
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