視界の外

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 いつものようにサボろうとするシンタくんをなだめ、苦手な算数の模擬テストを解いてもらっていた時のことです。私はシンタくんの学習机の斜め後ろの椅子に腰掛け、彼が間違えた問題を集めた復習ドリルを作っていました。スキを見せるとシンタくんはサボるので、それに注意しながらの作業です。 例えばプリントの添削に集中したとします。そんな時、ふと視線をシンタくんに向けると大抵彼はいません。そのかわりに彼が座っていた机の椅子を見ると、特大サイズのくまのぬいぐるみが問題と向き合っているという具合です。    まあこの頃には大分彼のモチベーションを上手くコントロールできるようになっていて、大胆な授業放棄は少なくなっていましたが。しかしこの日はついついドリル作成に夢中になってしまい、彼への注意が疎かになっていたのです。そしてプリント作成が終わりに近づいた時、背後で何かがこちらを見ている様な気配がしました。シンタくんが私の隙を突いて脱出しようとしているに違いありません。 「シンタくん、何をしているのかな?」  プリントから目を離さず、軽く諌めるように私は言いました。シンタくんは中々賢い子供なので、脱出がバレたら素直に従ってくれます。いつもならこれで終わりなのですが、今回は少し変でした。 「なにって、言われたテストだよ?」  シンタくんは先程と変わらず、斜め前の机に座り、真面目にテストを解いていたのです。  シンタくんのお友達でもいたのかと思い、振り向いて確認しても誰もいません。なんだか薄ら寒い気味の悪さを感じましたが、それ以外の事は何も起こらなかったので、その場は自分が疲れていたのだろうと思うことにしました。
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