視界の外

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目を覚ますと頭には濡れタオルが掛けられていて、ご夫婦が寝室として使われている和室に移されていました。辺りを見回していると、なにか違和感のようなものを背後に感じ、振り返るとそこにはお仏壇が一つ。精神的に追い詰められていたためか、反射的に情けない声を出してしまいました。それに気がついたようで、奥さんと旦那さんがふすまを開けて駆けつけてくれました。大変心配をかけてしまったようで、その狼狽ぶりにこちらも申し訳ない気がしてしまう程です。私が気を失ってからもう3時間ほど立っていたらしく、もうシンタくんは眠ってしまったようでした。シンタくんは奥さんに私の事を素早く伝えてくれたり、その後も濡れタオルを替えたりと看病を手伝ってくれたそう。あとでお礼をいわねばと思いつつ、やはり気になることが1つ。お仏壇のことです。人様の家庭事情についてあまり深く詮索するのは、いかに関係が深まった今でも失礼に当たるとは思いました。しかし、自分の体験したことはあまりにも身に余るもので、このまま誰にも言わなければ気が狂ってしまいそうです。奥さんに倒れた事の原因に思い当たる節はあるかと聞かれたのがきっかけとなり、私はこの数カ月の間に経験した出来事について、まるで吐き出すかのように話しました。  話をする中、もしかしたら気が狂ったのかと思われてしまわないか心配でしたが、二人は私の話を静かに、そして何故か泣きそうになりながら聞いてくれました。全てを話し終えると、なぜか二人は私に向かい、深々と頭を垂れて謝罪を申し出ました。状況が全くつかめない私は、ただ申し訳ない気持ちになり、それを止めてもらうように二人をなだめます。そしてその謝罪の理由について尋ねると、奥さんは顔を上げ、瞳に涙を貯めながら、私の斜め後ろにあったお仏壇に目を向け、ぽつり、ぽつりとその理由について話してくれたのです。
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