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その光景に紅羽は息をする
のも忘れてしまう。
天蓋付きのキングサイズの
ベッド。その中央に長い脚を
伸ばして座るディルクは、惜
しげもなく肌を晒していた。
ギリシャ神話をモチーフに
した男性像のような美しく鍛
えられた肉体は、紅羽の理想
を越えている。その肌さえも
輝いて見えた。
触れたい。あの身体を自分
の物にしたい――それが、紅
羽にとって初めての恋という
感情の芽生えだった。
紅羽はベッドに手をかけ、
膝で前に進む。獣になったよ
うな気持ちにさせられた。
目の前にあるのは美しき獲
物。絶対に逃がしたくないと、
独占欲が生まれた。
「き、キスしても、いい?」
焦る気持ちで上手く喋るこ
とすらできない。ディルクの
腰に跨り、恐る恐る顔を寄せ
た――
「安い口紅の味を、俺に味わ
せるつもりか……つまらん。
興が冷めた」
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