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世界にはまだ電気なるもの
がなかった時代――
物語の主人公となるひとり
の紳士が、とある孤児院を訪
れていた――
「伯爵様、本当に宜しいので
すか?」
「……構わん」
神父の心配を余所に男は黒
い外套を翻し、煉瓦造りの床
を踵を鳴らして颯爽と歩く。
――男の名はオーベルング。
孤児院のあるこの街から北
にある山を越えた向こうにあ
る土地の領主である。
深い茶色の髪と髭、細身の
長身。手には樫の木で作られ
た杖を持ち、頭には大きなシ
ルクハットを被り、一目でそ
の裕福さが分かる。
不安がる神父とは逆にオー
ベルは心を弾ませていた。
この孤児院に来た目的はた
だひとつである。“呪われた
少年”――その少年に会いに
来たのだ。
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