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【早朝5時35分】
閉じられたままの分厚いカーテンとカーテンの隙間から僅かに入り込む朝日が、部屋の真ん中に設置されたベッドを通りすぎ、窓とは反対側の白い壁を細く照らしている
隅の机の上に置かれた、誰よりも早くに眠りから覚めていた朝顔だけが、ベッドの上の人物を優しく見つめていた
カタカタカタ
小さな音が、静寂だった部屋に響いた
部屋の主が目覚めたのだろうか
カタカタカタ…カタ
音が止まった
しばらく無音のまま時は過ぎる
カタカタカタ
再び音が聞こえ始めた頃、音も無く部屋の扉が開いた
「おはよう、今朝も早いのね」
声からして、おそらく優しい女性なのだろう
静かに部屋に入ってきた女性に、生きるための水を与えられた朝顔も、何処か癒されている様にも見える
カタカタカタ
「何か良いことあった?」
カーテンを開け、振り返って微笑みを浮かべる女性の目に映る人物に、何か変化があったのだろうか
ふと自分の発した言葉に、何処か嬉しそうな響きがあったことに気づいた女性は、ずいぶん久しぶりだわ、と、心で呟き、微笑みを増した
カタカタカタ
静かに扉を閉じて部屋をあとにした女性は、一人、扉の向こうで涙する
カタカタカタ
どうやらキーボードを叩く音の様だ
カタカタカタ
大きめなモニターに映し出される、ワンダフルワールドの中のアバターの頭上には
《ハル:ハガキ職人 Lv.32》
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