間に合わなかった者達

4/4
前へ
/73ページ
次へ
   【早朝5時35分】  閉じられたままの分厚いカーテンとカーテンの隙間から僅かに入り込む朝日が、部屋の真ん中に設置されたベッドを通りすぎ、窓とは反対側の白い壁を細く照らしている  隅の机の上に置かれた、誰よりも早くに眠りから覚めていた朝顔だけが、ベッドの上の人物を優しく見つめていた  カタカタカタ  小さな音が、静寂だった部屋に響いた  部屋の主が目覚めたのだろうか  カタカタカタ…カタ  音が止まった  しばらく無音のまま時は過ぎる  カタカタカタ  再び音が聞こえ始めた頃、音も無く部屋の扉が開いた  「おはよう、今朝も早いのね」  声からして、おそらく優しい女性なのだろう  静かに部屋に入ってきた女性に、生きるための水を与えられた朝顔も、何処か癒されている様にも見える  カタカタカタ  「何か良いことあった?」  カーテンを開け、振り返って微笑みを浮かべる女性の目に映る人物に、何か変化があったのだろうか  ふと自分の発した言葉に、何処か嬉しそうな響きがあったことに気づいた女性は、ずいぶん久しぶりだわ、と、心で呟き、微笑みを増した  カタカタカタ  静かに扉を閉じて部屋をあとにした女性は、一人、扉の向こうで涙する  カタカタカタ  どうやらキーボードを叩く音の様だ  カタカタカタ  大きめなモニターに映し出される、ワンダフルワールドの中のアバターの頭上には  《ハル:ハガキ職人 Lv.32》
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加