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「マスター!麻衣さんが!」
そう言って、店を出ようとした私を麻衣さんは思いっ切り掴んで床に押し倒してきた。私が顔をしかめると、耳元で冷たく麻衣さんの声が響いた。
「余計なやつを呼ぶな。」
「麻衣さん?」
麻衣さんは私を抑えつけている力をゆるめ、そのまま近くにあった椅子に腰を下ろした。
「今、余計な奴に来られると私にとっては都合が悪い。」
私が見上げるとそこにいたのは麻衣さんではなかった。同じ麻衣さんの姿でも、あの鋭い目つきはあの日から忘れたことはなかった。
「あなた…アイさん?」
「こうやって話すのは初めてじゃない?木下ともえさんだっけ?」
すぐさま店に飛び出そうとしたが、私はそこで思いとどまった。見る限り、アイとして存在している麻衣さんは失語恐怖症ではなさそうだ。つまり、アイだから聞ける新しいこともあるかもしれない。そして、私はアイさんの前に立った。
「そう、私が木下ともえです。」
「私と麻衣とるみの過去を探っている、しつこい女子高生よね。」
私はむっとした。確かにその通りだが言い方ってものがあるだろうに。アイという人格は麻衣さんとはこうも違うのか。
「アイさん、アイさんもるみの事、知ってますよね?」
「知ってるもなにも、会ったことあるしね。あなたにも会ったことあるし。」
「え?」
「ほら、一週間ほど前に麻衣と話してたでしょ?あれから二人が分かれた後に少しだけ入れ替わってたんだ。」
「まさか、るみにあなたは何かしたの?」
「本当に直球で聞いてくる奴ね。まぁ、いいか。で、それを聞いてあなたは私をどうするの?説教?」
「それは分からないけど。」
「ただ自己満足か。」
「違う!」
「自分だけ優越感にひたりたい?」
「それも違う!」
「ねぇ、麻衣とるみを本気で仲直りさせようって思ってるの?あなたにメリットはないでしょ?」
「それはそうだけど。」
「あなた、何のためにそこまでするの?]
「友…」
「友達だから、なんてそんな非現実的な事、言わないでね。面白くもなんともないし。」
アイさんの中には友達という存在はそんな風にしか思えていないのか?
「アイさんは、そんな風にしか他の人を見れないの?」
「あなただって、そんな風に人を見ることないの?」
「いや、普通はないんじゃ…」
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