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麻衣と会ってからしばらく経った。私は相変わらず彼女を避けている。まさか彼女の父親がこの学校の近くで店を構えているなんて…。
あの事件をきっかけに麻衣と絶交状態になり、それに耐えきれなくて、必死に勉強した。そんな風に何か他の事を考えている間は事件のことも、麻衣とのことも全部忘れられた。その結果、よくも悪くもそこそこの実績のある坂の上女子高に進学できるくらいの頭脳はもらえた。怪我の巧妙と言ったら何か違うような気もするのだが、とにかくその時はともえと一緒に喜んだ。
ともえは中学時代は荒れてたけれど、ふとした事で仲良くなった。それは私がちょうど麻衣と決別してしまったばかりの頃……
「あー!めんどくさ!もう面倒だし逃げようかな~。」
放課後の教室でともえがそうつぶやいていた。課題を出さず、それでいて、テストの点数も平均30点くらいだったので、特別課題を出されていたのである。みんなはともえの自業自得と言った感じで別にきに止めてもいなかった。私も最初はみんなと同じ感じで別に気にしていなかった。しかし、ある日の完全下校の前、私が1人教室で勉強していると、いきなり、ともえが入ってきた。
「おー、みんな帰ったと思ってたのに残ってるやついるじゃん!ちょっと頭貸してくれよ?」
「あ、頭?」
「あー、だから、その…この数学解かないと今日帰んなって言われたんだけど、何回やっても答が出ないんだよ。」
「あ、知恵ってことね…。どこかでミスしてるんじゃないの?」
「そんなわけねーだろ!もう10回は見直したっつーの!なのに、無限小数で出てくるんだよ!」
そして、何故か自慢気にドンと課題のプリントを机に置いてくる。
「キャンディーは何個って問題で13.666…とか可笑しいだろ!」
「いや、まぁそうだけどさ…。」
「頼むよ、何とかしてくれ。私、この後、ちょっと約束あるからそろそろ出ないとヤバイんだ。」
そう必死で懇願してくるともえが少し気の毒に思う反面、それがいつものともえの像からは想像もできない様子で、少しおかしくもあり、私は彼女を手伝うことにしたのだ。
時間がかかるかなと思ったが、単純に足し算の繰り上げを忘れていただけという定番のミス。10回も見直ししたのなら、気づくでしょとも思わないでもなかったが、サンキューと言いながら、笑顔で答を持っていくともえを見て、私も笑っていた。
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