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私が振り向くとその女子はさっと私から目をそらした。その時、確かに私には見えた。髪に隠されてよく見えなかったが顔に大きな傷跡があった。私のそんな様子を見ていたマスターが彼女に言う。
「今年の入学生だそうだ。もしかしたらあの子が入学できたのか知ってるんじゃないか?」
「気にして・・・ないから。」
そう言うと、彼女は席に着いた。
「あの子、娘さんですか?」
「ああ、そうなんだけどね。何て言ったらいいのか・・・まぁ、込み入った事情があるんだ。昔はあんなんじゃなかったんだけどな・・・。」
「友達がいるって。坂の上女子に」
「ああ、中学時代の友達だよ、前田さんって言うんだけど。知らない?もしかしたら今年入学したかも知れないんだよ。」
「前田・・・。」
まさか、るみだろうか。いや、こんなに無口な友達がいたなんて聞いたこと無い。でも、もしも彼女が本当にるみの知り合いなんだとしたら・・・。私の中にちょっとした興味が湧いた。
「私の友達に前田るみって子がいるんですけど・・・。」
「残念ながら下の名前は知らなくて・・。
そう、マスターが返した時、コップが割れる音が店の中に響いた。振り返ると、あの女子が震えながら座っていた・・・。そして、キッっと私の方に向き直ると
「るみ・・・前田るみ?」
と、目線も定まらないように問いかけてきた。となると、この子は本当にるみの知り合いって事になる。私の頭の中でその考えが結びついたと同時に彼女は私の肩を掴んだ
「あなた、るみの友達・・・なんですか?」
「まぁ、友達かな、中学三年の時から。それにしても、るみにこんな無口な友達いたんだ。え、名前は?」
「こ、こんな偶然ってあるんだな・・・。」
マスターも声を震わせている。私は悟った。私は、るみが伏せている過去の扉の一つを開けてしまったんだと。
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