第2話

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私の呼び掛けに、咳払いをしては口を開く。 「…変な冗談はよせ」 そう呟き、持っていた書類を作業台へ置いた。 え?…違う! 「あの、私、冗談なんかじゃ…」 目を見て伝えようとしたが、オーナーは視線を合わせようとはしない。 腰に手を回し、エプロンを外していた。 「さっきも言ったが、品物を取り寄せてる。今日はもう上がって構わない。おつかれ」 そう言って足を運び、すれ違う。 やだ。…やだ!待って! 私はそのすれ違い様、とっさに腕をギュッと掴んでいた。 そして目を大きくして振り返るオーナーを、しっかり見つめた。 「冗談なんかじゃありません」 手にも、言葉にも、力が入る。 「私、本当にオーナーが好きなんです!」 そう言った後、しばらく静かな空気が流れた。 だけどやけに胸の音がうるさくて、その音が伝わってるんじゃないかと思えてしまって、早く何か言ってほしいと訴えていた。 しばらくして、再びオーナーは視線を外す。 その仕草に、すぐに痛みを覚えた。 「…俺は、部屋に戻ってる」 そう言うと、掴んでいた私の手をそっと離し、振り返ることなく厨房から出ていったのだった。 ドアの閉まる音が、虚しく響く。 私はその場に立ち、閉められたドアを見つめていた。 少しして、目の異変に気がつく。 慌てて手の甲で拭った。 「…な、なんで?……もう、やだ……」 何度拭ってもこぼれ落ちてくるその意味がわからず、顔を両手で覆った。 最初に言った好きは、あんなに気持ちよくて、暖かくて、晴れやかだったのに。 2回目に言った好きは、胸が苦しくて、痛くて、せつなかった。 今もまだ、その後味が胸に残っている。 私、変なこと言っちゃったのかな? 好きなんだって気づけたから伝えたんだけど、いけなかったのかな? オーナーに視線を反らされてしまうのなら、言わなきゃよかった。 きまずくなるなんて、これっぽっちも考えてなかった。 じゃあ、どうなると思って伝えたの? 何か期待してた? 「…っ、…うっ……っ…」 涙が収まるまで、私は1人、厨房に立っていた。
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