第2話

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「あ、おはようございます!今日は、何にしますか?」 「ん…、カフェオレ」 「はい!」 シャンテイでお世話になりはじめて1ヶ月。 この生活にだいぶ慣れてきた私は、毎日を楽しめるようになっていた。 オーナーの前にカフェオレを出し、今日はどんな感想がもらえるのかと、わくわくしながら待ってみる。 すると、オーナーはカップを口に運ぶも、片眉上げて私にデコピンしてきた。 「痛っ」 「笑いながら待つんじゃない。飲みにくいだろ」 あら?私、笑ってた? オーナーは椅子へドスッと腰掛けて、新聞に目を運んでいた。 その様子を見届け、私は朝食の用意へ取り掛かった。 さあ、今日も1日、元気にシャンテイで働かなくては! お店に立つことにも慣れてきた私は、だいぶゆとりが生まれていた。 龍くんに指示されてもバイトくんに指示されても、立ち止まることがなくなり、事はスムーズに流れていく。 面倒をかけることがなくなっただけでも、ひとつの成長だ!なぁんて1人実感していた。 「柚ちゃん、ごめん。恭兄のところに行って、『苺の王冠』頼んできて。そろそろ切れそうだから」 「あ、はい!」 そして私はお店から厨房へ。 ドアをノックして返事を待つ。 と言うか、朝や閉店後は何度も出入りするものの、日中ここへ来ることが初めてな私は、中へいきなり入っていいのかわからなかった。 しばらくしても、返事はない。 あれ?…入っていいのかな? ドアをそっと開け、中を覗いてみる。 部屋の中央にある作業台で、オーナーは静かに手を動かしていた。 声をかけようとしたが、私はその言葉を慌てて飲み込んだ。 「…っ」 思わず手を口元へ運び、その姿を見つめていた。 普段は無表情に近いオーナーなのに、今の横顔からは優しい温もりが感じられた。 ケーキを扱うその手は柔らかくて、とても輝いているようで。 これが、パティシエ…。 心の中で呟いていると、オーナーは手を止めた。 「…暇なのか?」 その言葉にハッとする。 「あ、いえ!あの『苺の王冠』を…」 「出来てる。運べ」 「あ、はい!」 朝のオーナーとは違う顔と雰囲気に、なぜか心拍数が上がる私だった。
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