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頬を熱くしながらも、私は龍くんにペコッと頭を下げた。
「き、昨日は、ごめんなさい」
「アハハ。そんなこと?」
「ホントに、あの、…ごめんなさい」
「柚ちゃんが謝ることじゃないよ。あんなとこで手を出した俺も俺だし。…それより、恭兄のとこ、戻ったら?」
「あの、彼女さんにも、ごめんなさいって伝えてもらえますか?」
そう言うと、龍くんはニコッと笑い、部屋のドアを開けた。
「さきに着替えしちゃうね。朝食になったら教えて」
そう言って、部屋の中へと入っていった。
私はドアをしばらく見つめた後、階段へ向きを変えた。そして降りていく。
だ、大丈夫だったかな?
これで、よかったかな?
でも、他にどうすることもできないもんね。
「…はぁ…」
一息ついては、キッチンへと戻っていったのだった。
朝の食事を穏やかに取った後は、いつものように仕事が待ち受けていた。
ショーケースに出来上がったケーキを並べ、お店を開店モードへと切り替えていく。
電車の時間になっては、晋くんは慌ただしく店を出て学校に向かっていった。
朝のこの時間は、私にとってもあっという間だ。
今日は、大学が午後からの龍くんと一緒に店に立った。
若干気まずさは残るものの、そんな雰囲気を作らない龍くんのおかけで、いつものように楽しく仕事が進む。
というか、そんなことがあったのにも関わらず、何も変わらない龍くんが大人にも見えて仕方なかった。
私は一睡もできなかったっていうのに。
これが、経験の差というものなんだろうか?
キスはもちろんのこと、男の人に抱き締められたことなんて一度もない。
昨日の男女の姿を見て興奮している私って、やっぱり子供なのかな?
人を好きになる感覚って、どういうことを言うんだろう。
全く恋愛経験などしたことがない私にとって、そこはまさに未知の世界。
龍くんはいいなぁ。
そして再び頭の中は妄想で広がっていく。
っていうか、この妄想は止めようって。
1人で自分に突っ込んでいると、お店の入り口が開く。
「いらっしゃいま…」
顔を上げてそこまで言葉にしておいて、続きが出てこなかった。
だからさ、昨日の今日で気まずいって、何度思えばいいんですか?
入ってきたのは、龍くんと密着していたあの女性。
私と目が合うなり、きつく睨んでくる。
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