第2話

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春だからだろうか、優しい色合いの服が並んでいる。 どうしようかなぁ。 そんな高いのは買えないし。 でも、かわいいのがいい! キョロキョロ探し回って目に止まったのは、お店の一番前にあったワンピース。 春ブーツも一緒に飾られていて、とても素敵だった。 お店の人に頼んで試着させてもらうと、ますます欲しくなる。 私はそのワンピースとブーツをセットで購入した。 ちょっと痛い出費になってしまったけど、でも、気分はとても高まった。 そして荷物を抱え、急いでシャンテイに戻ろうと走っていた。 自販機の前を過ぎて。 「あ、おい。柚花!」 その声に私は立ち止まり、振り返る。 「あれ!?オーナー?」 どうしてここに? 慌てて近づくと、オーナーは私にポンッと何かを投げてきた。 受け取って見てみると、午後の紅茶。 「…え、これ?」 「やる」 や、やるって…。 「…オーナーが飲みたかったんじゃないんですか?」 「俺はさっき飲んだ」 …へ?飲んだの? 私が首を傾げていると、オーナーは足を進め始めた。 「行くぞ」 「え?あ、はい!」 私は慌ててオーナーの隣にいき、その歩幅に合わせていった。 別に期待してそう思うとかじゃないんだけど。 …もしかして、待っててくれた、とか? そんな思いを胸に、横顔をチラッと盗み見る。 オーナーの瞳は、真っ直ぐ前を向いていた。 前髪が、軽く風に揺れている。 黒髪がとても似合う人だと思った。 …え~っと、あれ? これって、なんなんだろう。 この前厨房でオーナーを見たときと同じ。胸の中が変に鼓動を打っているような。 でも、それが嫌な感じというわけじゃなくて、むしろ楽しいというか。 心がそわそわしているって言えばいいのかな。 …なんか、私変かも。 この初めての感覚に、どこか戸惑ってしまう自分がいた。
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