第2話

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その感覚は時と場合によって非常に激しくなると気がついたのは、シャンテイに戻ってから。 例えば、買ってきた物を整理させる際にお互いの手が触れてしまったときとか。 高い位置に物をしまいたくても手が届かず、そんな私を見てオーナーがすぐ後ろから手伝ってくれたときとか。 鼓動の音が耳元まで聞こえてきたのだった。 おかしいなぁ。 なんでこんな風になるんだろう? 頭を使って考える。 これはきっと、私が異性とここまで長く一緒にいたことがなかったからではないだろうか? お嬢様学校に通っていた自分にとって、異性との関わりは無いに等しかった。 男友達なんてもちろんいない。 高校を卒業してからも坂本以外に関わる男性はいなかった。 それが原因なのでは? そういう解釈に至り、1人ウンと頷いた。 だけどすぐにそんな考えは覆される。 しばらく様子を見ていたら、その感覚が起きるのはオーナーだけであることが判明した。 晋くんに助けられたり髪を撫でられても、なんともない。 龍くんに顔を覗かれようが手が触れようが、全く何も起こらない。 実におかしい。 オーナーは私に、何か特殊な電波でも発しているのだろうか? そんなわけないだろと1人で突っ込みをいれたある日の夕食。 晋くんは食事を終えると、いきなり椅子から立ち上がった。 「俺、絶対やってみせるよ」 「は?」 すぐに聞き返したのは龍くん。 「恭兄を、越えてみせる」 そして力強く拳を握った。 何の話をしているのか私にはサッパリ。 でも、それは龍くんもオーナーも同じなようで。 すると、晋くんは続けて話してきた。 「今度の製菓技術コンクールに、うちの学校も参加するんだ。それに出て、絶対優勝する!」 …へぇ。コンクールかぁ。 「そしたら恭兄よりすごくね?」 その言葉に一息ついたのは龍くん。 「…無理だって」 「あ?んなのやってみなきゃわからねぇだろ?」 「例え優勝しても、恭兄よりすごいなんて俺は思わない。恭兄のパティシエ歴何年だと思ってんの?晋兄はまだ1年そこらだろ」 「だから何だ?それで有名になったりしたら、俺の名が広がる。そしたらシャンテイの名も大きく広がることになるだろ?」 あらあら…。なんか晋くんと龍くん、言い合ってない? 私はオロオロしながら様子を見つめていた。
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