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食べ終えてしばらく黙っているかと思ったら、足を運びそのまま厨房から出て行ってしまった。
あっ…、いいのかな。
晋くんが去っていたその後ろ姿を目で追っていると、オーナーがポツリ。
「…片付けもできないのか」
そして、ため息つきながら後片付けを始める。
「あ、あの、私手伝います」
そう声をかけ近づくと、オーナーは首を振った。
「食事の後片付けは終わったのか?まだならそっちやれ。ここは俺一人で充分だ」
「あ…、はい」
そう返事をすると、龍くんが微笑んでくる。
「晋兄のは俺が片付けるから、大丈夫だよ」
その声かけに私は頷き、龍くんに任せて厨房からキッチンへと戻っていった。
心のなかはどこかもやもやしている。
でも、こういうものなのかな。
お店を経営するって、難しいよね。
働く人もそれぞれの考えを持っているわけだし、お互いの思いがぶつかることもある。
でも、その積み重ねがあるからこそ、シャンテイはより良く変わっていくことができるんじゃないだろうか。
洗い物を進めながら、そんなことを思っていた。
しばらく手を動かしていると、ふいに人の気配。
ビクッとして後ろを振り返ると、龍くんが冷蔵庫を開けていた。
私を見て、クスクス笑う。
「驚かせちゃった?片付け、今終わったってさ」
あ、私ドア閉めてなかったんだね。
「いえ、お疲れさまでした」
そして洗い物へ体を向き直し続けていると、龍くんはさらに声かけてきた。
「柚ちゃんは、どっちだったの?」
「…へ?」
「恭兄と晋兄のケーキ」
「えっ!?…あ~、それは…」
返答に困り目を泳がせる。
そんな私を見て、龍くんはまたもクスクス。
「大丈夫。2人には秘密にしておくよ?」
「あぁ、…はい」
どこか躊躇いながらも、思ったことを口にしていった。
「どちらも本当に美味しかったです。だから正直、判定はつけられません。でも、晋くんのケーキを食べたとき真新しさを感じました。それは私がオーナーの味に慣れてきた証拠でもあると思うんですけど…。
期間限定で出す商品なら、そういう真新しいものをお店に並べてみてもいいんじゃないかなぁ…、なぁんて思ったりもします」
「へぇ…、意外。んじゃ晋兄に一票だったんだ?」
「え!?いや、それはだから…」
あれ?そうなるのかな?
でも、オーナーのはもちろん美味しくて、どちらを並べてもいいと感じていたんだけど…。
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