第4話

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お盆を持つ手に、いつの間にか力が入っていた。 顔をしかめてしまいそうになり、慌てて息を吸い込む。 「…少し、お待ちください」 そしてその場からゆっくり離れ、一度ショーケースの方へ引っ込んだ。 胸の中には、苛立ちと不安と、焦りとやるせない感情が入り乱れていく。 私、オーナーに「エリさんが来てる」だなんて、言いに行けないよ。 …言いたくないし。 その場から動けなくなってしまった私は、バイトくんに頭を下げた。 「ごめんなさい。あの、さっきの女性の方なんですけど、オーナーに会って話がしたいみたいなんです。呼んできてもらうこと、できますか?」 「あ、そうなんだ。わかった。伝えてくるよ」 すぐに了承してくれたバイトくんは、厨房へ向かっていった。 その間、私はショーケースから残りのケーキを取りだし、箱詰めする。 目からは、涙が溢れそうだった。 オーナーはエリさんを見て、どんな顔をするんだろう。 また、私じゃなくて、エリさんばかりを見つめるのだろうか。 …そんなの、やだよ。 2人が話すところなんて、見たくない。 箱詰めを終えラッピングしていると、バイトくんが戻ってきた。 そして隣へやって来る。 「今来るよ」 そう言い終わったのと同時に、オーナーが店の中へとやって来た。 前髪をかき上げた後、店内を見渡す。 もちろん今いるお客様は、ただ1人で。 その姿を見てすぐに誰だか気づいたのか、一点を見つめていた。 かと思ったら、オーナーは急にこちらへ振り向いてきた。 私と、思いきり目が合った。 その意外な視線に、胸がドキッと反応する。 私は目を合わせていられずに、パッと視線を外した。 慌ててラッピングの続きへ。 気にしていないふりを装いながら、手を動かしていた。 すると、オーナーがゆっくり歩き出すのがわかった。 その後続けて、エリさんの明るい声が聞こえてくる。 「あ、おつかれさま。急に来ちゃってごめんね」 「いや…、構わないよ」 「今日仕事早く上がれたから、寄ってみたの」 「…仕事、してるのか?」 「うん。ここからそんな遠くないとこなんだ。だから帰り寄って行こうってずっと思ってたんだけどさ、開いてる時間になかなか間に合わなくて」 聞こえてくる会話を、気にせずにはいられない。 早く終わらせてほしくて、お持ち帰りの分が用意できたところで、2人へ静かに視線を運んだ。
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