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まどかさんが怪訝な表情で、ジリジリと顔を近づけてきた。
「あの、待ってください!誤解なんです!」
そう言葉にしたのもつかの間、龍くんが家からちょうど戻ってきたようで。
「まどか、ごめん。待たせた?」
その声に、勢いよく龍くんへ顔を上げるまどかさん。
「ちょっと、龍!この子親戚なんじゃなかったの!?」
「あ?…あぁ………」
龍くんは事の流れをすぐ察したのか、視線を横へ流していった。
「もう、なんでそうやっていっつも嘘つくのよ!?ひどくない!?」
アハハと苦笑いする龍くんだったけど、まどかさんのご立腹は収まらないようで。
さきに店からスタスタと出ていってしまった。
「ああ、龍くんごめんなさい!」
「大丈夫、大丈夫。俺がそう言っちゃったのが悪いんだし。気にしないでね!とりあえず、後追ってくる」
そう言ってニッコリ笑うと、龍くんもお店を出て行ったのだった。
あちゃ~。
額に手を当て、息をついた。
まどかさん、怒ってたなぁ。すごい申し訳ないことした気分…。
大丈夫かなぁ。
2人を心配しながら、仕事の時間は慌ただしく流れていった。
それでも頭の中に残っていたのは、『両想いになったって、あれこれ問題は尽きないものなのよ』というまどかさんの言葉で。
というか私の場合、自分自身に大きな問題がある。
こういうのって、どうすればいいんだろう。
オーナーにきちんと、今までの自分というものを教えたほうがいいのだろうか。
…今までの、自分…。
胸の中で呟いては、首を左右へ振った。
…言えない。
言えるわけ、ないじゃん、ね。
キュッと唇を噛み締め、その後も真面目に仕事に取り組んでいった。
「柚花ちゃんごめん。オーナーに追加頼んできて」
「はぁい」
バイトくんにお願いされ、私は急いで厨房へ。
ドアをノックする。
間を少しあけてから、ドアを開けて中へ入った。
そこには、真剣にスイーツを作り上げていくオーナーの横顔が。
胸をキュンとさせ、声をかけるタイミングを見計らった。
フルーツを乗せたところで、先にオーナーが口を開く。
「追加?」
「あ、はい」
「ん、これいいよ」
その返事に頷き、私はオーナーの隣へ。
いつもながら可愛らしくていい香りを漂わせるケーキたちを前に、ニッコリ笑ってしまう。
すると、オーナーは続けてきた。
「店、忙しいか?」
「そうですね。でも、今は一段落って感じです」
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