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そう答え、丁寧にスイーツを運ぼうとお盆を手にした。
そして持ち上げようとしたとき、制服の裾をクイッと引っ張られていった。
…ん?何?
「なら、お前も一段落していけ」
「…へ?」
何を言ってるのかと思い、オーナーの方へ顔を上げると、フォークにイチゴを差して私の口元へ運んでくる。
イチゴを見つめてはオーナーへ視線を運ぶと、ニコッと微笑んできた。
わぁ、いいの?うれしい!
「ありがとうございます!」
パクリと一口。
「ん、おいしい」
その甘さに思わず笑ってしまう。
オーナーにもニッコリ笑顔を返すと、なぜか顔が目の前に近づいてきた。
そして瞳を覗き込み、呟いてくる。
「ついでに俺も」
…え?ついで?
そう言ったかと思えば、柔らかくフニッと唇同士が重なっていった。
いきなりのことに、慌てて目をつぶる。
すぐに離れるかと思ったのに、意外や意外でなかなか離れない。
しかも右手が私の頭の後ろに回ってくる。
「んっ……っ」
い、息が…。
どこで息をすればいいのかまだよく掴めない私は、オーナーの制服の胸元を手でギュッと握り締めた。
すると、ゆっくり唇が離れていく。
私は息を整えながら目を開けてみた。
そこには、ペロッと唇を舐めるオーナーが。
「ん…、甘すぎ」
そう言って、クスッと笑ってきた。
うっ、やばい。
その表情に、私の顔も頭も胸も爆発しそうで。
「あっ、あの!それじゃ、これ、は、運びます!」
慌ててお盆を持ち上げた。そして歩き出そうとした。
が、同時に足がもつれそうになり体をグラつかせると、オーナーの手がすかさず私を包み込んできた。
力強くて大きな手が、私の体をしっかり支えてくる。
耳元で、低い声が響いてきた。
「大丈夫か?」
うわ。…うわぁ~!
オーナーのあたたかさがじんわり伝わってくる。
そんな状況の中、私の胸の高鳴りは半端なく、それに耐えられなくなり体にギュッと力を入れては身構えていった。
どうしよう。…この距離、変に緊張しちゃう。
おかしくない?
2人きりなんて、想いが通じてからもずいぶん過ごしているはずなのに。
キスした後だから?突然体に触れられたから?ここが厨房だから?仕事中だから?まだ慣れない空気っていうことなのか?
頭の中をそんなことでいっぱいにしていると、少しして、オーナーの手は私から離れていった。
そして、声かけてくる。
「それ、落とすなよ」
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