第4話

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後ろへ振り返り目が合うと、オーナーはクスッと笑い、作業台へ視線を戻していった。 「は、はい。気を付けます!」 そう元気に返事をしては手に力を入れて、丁寧にスイーツたちを運びドアへ向かう。 厨房から出て、私はフゥと一息。 まだ胸のドキドキは続くものの、緊張から少しずつ解放されていった。 オーナーの大切なスイーツを運び終え、さらにホッとする。 そしてその後に考えてしまうのは、さっきのオーナーとのやり取りで。 キスとか、体に触られるとか、私が意識し過ぎなのかな? もうちょっとこう、慣れた関係になるには、それなりに時間が必要だってことなんだろうか? もっと早くラブラブになりたいというか、距離をどんどん深めていきたいと思うんだけど。 体や意識がそこまでついていってないようで…。 そこで浮かんできたのはお馴染みのあの2人。 龍くんとまどかさんは、抱き合うときって緊張しないのかな? ごめんね、2人とも。勝手に題材にしてしまって…。 私には、参考になるようなものがないんだもん。 こんな自分にやれやれとため息ついては、仕事に戻っていったのだった。 もっと早く慣れるように、抱き締められたい、キスしたい。 そんな私の思いがどんどん強まる中、オーナーはそんな気配など微塵も見せることなく、2人きりの時間はあっという間に過ぎていた。 寝る前にキッチンで会話をすることが日課になりつつも、おやすみの挨拶は軽く触れるだけのキス。 朝のコーヒータイムも、頭を撫でられたりするだけだったり。 もちろん楽しいのは当たり前なんだけど、オーナーの笑顔を見れてうれしいんだけど、その先を求める自分がいることに間違いはないわけで。 この前の、想いが通じたときみたいな深いキスは、してくれないのかな? 唇が、おもいきり重なって、舌が、絡み付いて、体がすごく熱くなって…。 力が抜けちゃうくらい、気持ちよくて…。 あんなキスを、もう一回…。 そこまで妄想して、ハッと目を見開いた。 ちょっと待った! 今、私、なんてこと妄想してたの!? ダメダメダメダメ! 思いきり首を左右へ振る。 そして、手にしていたお水を一気に飲み干した。 お風呂から上がったばかりということもあってか、なかなか体から熱が逃げていかない。 もう一回お水を飲もうかと思っていると、キッチンのドアが開いた。 やって来たその人を見て、再び体は熱くなっていく。
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