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「風呂、上がったのか?」
「あ、はい!」
返事をすると、オーナーは私の前へ歩み寄ってきた。
その距離が縮まれば縮まるほど、胸も勝手に高鳴っていく。
これって絶対、変なこと考えてたからだよね。
オーナーは目の前に来たところで、私の髪を触るなりため息をついた。
「昨日も言っただろ?もっとしっかり乾かせ」
その言葉に、私は目をパチクリ。
「えぇ?これでも結構時間かけたんですよ」
腰上ぐらいまで伸びている髪の毛を、左側へまとめて流してみる。
オーナーはそれを見て、続けてきた。
「待ってろ。ドライヤー持ってきてやる」
「え、大丈夫なのに」
「いいから」
そう言って、キッチンを後にした。
そしてドライヤーを手にして戻ってきたオーナーは、ここへ座れと言わんばかりに椅子を引き出した。
私はおとなしく、そこへ腰かけることに。
ドライヤーのスイッチを入れると、私の髪の毛を柔らかく撫でるように、ふんわり優しく乾かしていく。
…あぁ、これってもしかして、かなり贅沢。
そのひとときに、満面に笑ってしまった。
乾かし終えると、オーナーの手が私の髪をさらに撫でてくる。
ゆっくり立ち上がり、オーナーへ振り返って声をかけた。
「ありがとうございます。サラサラになっちゃった!」
すると、ニコッとしてオーナーは頷いた。
「せっかくキレイな髪してるんだ、もったいないだろ」
え!?…キレイ!?
ピンと耳を立て、反応する。
「ホントですか?そんなに私の髪、キレイ?」
オーナーの胸元に近づいて顔を上げ、返事を楽しみに待っては見つめていた。
すぐに返してくるかと思いきや、オーナーの視線は横へ流れていく。
…あれ?なんで目を反らすの?
私は再び目を合わせようと、顔を運びオーナーの瞳を覗こうとした。
「あの、聞いてます?」
そして右腕をチョイチョイと引っ張ってみる。
オーナーはなぜか咳払いして、口を開いた。
「…あぁ、聞いてる。キレイだよ」
そして頭を撫でてはさらに続けた。
「明日も早いんだ。そろそろ寝ておけ」
そう言って、ドライヤーの線をコンセントから外していた。
もちろん私がこれでニッコリ頷くはずがない。
「もう寝るんですか?まだもう少しくらいなら…」
「ダメだ。…ほら」
そう言うと、オーナーの顔がすぐに近づいた。
軽く、唇が重なる。
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