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私は勢いよく吹き出し、声を上げて笑ってしまった。
「アッハハハハ!」
それは涙が滲んでくるほどで。
「な、なんだよ!そんな笑うとこじゃねぇし!」
「ごめんなさい。でも、…でも、すっごいうれしくて…。ありがとう」
滲む涙を拭いながらそう伝えると、晋くんはブツブツ呟いて照れたように椅子に腰かけていった。
龍くんもそれを見届け、クスクス笑っている。
恭は椅子から立ち上がり、右手で私の頭を優しく撫でてきた。
顔を上げ目が合うと、優しい眼差しで微笑んでいた。
あまりの安心感に、さらに涙が滲んでしまいそうだった。
雨上がりの午後。厚手にかかっていた雲の隙間から、太陽の光が差していた。
お店のドアが開かれ、お客様がやって来る。
「いらっしゃいませ!あ、森さん!」
私は元気に声をかけた。
少しずつ覚えた顔見知りのお客様。
シャンティに関われば関わった分だけ、馴染みのお客様が増えていく。
「こんにちは!今日はシュークリームもらいにきたの」
「はぁい!いくつにしますか?」
「これから子供たちが家に集まるらしくて、十個ほしいんだけど、ある?」
「はい!大丈夫ですよ!」
こんなやりとりをして楽しく過ごしていると、再びお店のドアが開いた。
「あぁ!文おばぁちゃん!いらっしゃいませ!」
「おやおや、今日も元気だね」
にっこり笑顔を返してくれた。
私と恭と、公園で話をして以来、少しずつお店に入ってくれるようになっていた。
初めてきてくれたときはあまりにうれしくて、文おばぁちゃんを席までエスコートしてしまったくらい。
その日から、文おばぁちゃんの席は窓側の一番眺めがいいところと、私が決めていた。
月一回だったのが、最近では毎週の間隔になりつつある。
文おばぁちゃんの姿にうれしくなって、今日もそこまでエスコート。
「何か、食べていきますか?」
「この前来たとき、限定のが出るとか言ってなかったかい?…それにしてみようかねぇ」
その言葉に、私はおもいっきり微笑んだ。
「ありがとうございます!待っててくださいね」
そしてショーケースに戻り、恭が何度も何度も試行錯誤作り上げたスイーツを取り出した。
形はあのときとほぼ同じだけど、柚子は冬にということで、代わりにレモン漬けした季節の桃をゴロンと乗せたパイ。
大事に丁寧に、文おばぁちゃんの元へお届けした。
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