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それを一口食べてにっこり笑ってくれる文おばぁちゃんに、私もつられる。
あぁ…、すごいなぁ、恭のスイーツは。
誰かを笑顔に出来るって、すごいことだよ。
胸をポカポカにして仕事の続きへ。
しばらくして、またもシャンティのドアが開かれる。
やって来たのは、初めて見かける人だった。
ヒョロッと長身で、黒髪の若い男性が一人。
「いらっしゃいませ」
声をかけるとすぐに目が合った。見た目からして、20代?
そしてペコッと頭を下げてくる。
…誰?
不思議になりながら見つめていると、男性はショーケースの前へ足を進めた。
スイーツを一通り眺め、私に声をかけてくる。
「おすすめ、ありますか?」
「あ、はい!『苺の王冠』はオーナーのおすすめです。最近出た季節限定のパイも、おいしいですよ」
「じゃあ、その2つ」
「はい!ありがとうございます。お持ち帰りですか?」
尋ねると、顔を上げて店内を見渡した。
「食べていけるんですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「なら、ここで食べていきます」
「はい、ありがとうございます。お好きな席にお掛けになってお待ちください。すぐお届けしますので」
そう言うと、男性はテーブルが並ぶ方へ足を運び、椅子に腰かけた。
選んでもらった2つのスイーツを、彼の元へと運んで行く。
テーブルに並べると、再び私にペコッと頭を下げ、フォークを持ち食べ始めていった。
私は自分の持ち場に戻り、チラチラと視線を送りながら彼の存在を気にかけていた。
男性が一人でやって来るのは、シャンティでは珍しいことだったから。
少しして食べ終わったのか、男性はお会計をしにレジの前へ。
お代を頂き、今度は私が頭を下げる。
「ありがとうございました!」
すぐに帰るかと思いきや、彼はその場に立ち、私を見つめ口を開いた。
「あの、ここに、加瀬恭一さんっていらっしゃいますか?」
…え?
思わぬ質問に、目を見開いた。が、すぐにコクンと頷く。
「はい、ここのオーナーです」
「…あの、お仕事中申し訳ないんですが、少し話をさせてもらうことってできますか?長谷川さんの紹介でと伝えてもらえると、話は早いかと思うんですが」
「あ、はい。わかりました!今、声かけてきてみます。少しお待ちください」
私は急いでお店から厨房へ向かった。
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