第5話

11/38
前へ
/38ページ
次へ
それを一口食べてにっこり笑ってくれる文おばぁちゃんに、私もつられる。 あぁ…、すごいなぁ、恭のスイーツは。 誰かを笑顔に出来るって、すごいことだよ。 胸をポカポカにして仕事の続きへ。 しばらくして、またもシャンティのドアが開かれる。 やって来たのは、初めて見かける人だった。 ヒョロッと長身で、黒髪の若い男性が一人。 「いらっしゃいませ」 声をかけるとすぐに目が合った。見た目からして、20代? そしてペコッと頭を下げてくる。 …誰? 不思議になりながら見つめていると、男性はショーケースの前へ足を進めた。 スイーツを一通り眺め、私に声をかけてくる。 「おすすめ、ありますか?」 「あ、はい!『苺の王冠』はオーナーのおすすめです。最近出た季節限定のパイも、おいしいですよ」 「じゃあ、その2つ」 「はい!ありがとうございます。お持ち帰りですか?」 尋ねると、顔を上げて店内を見渡した。 「食べていけるんですか?」 「はい、大丈夫ですよ」 「なら、ここで食べていきます」 「はい、ありがとうございます。お好きな席にお掛けになってお待ちください。すぐお届けしますので」 そう言うと、男性はテーブルが並ぶ方へ足を運び、椅子に腰かけた。 選んでもらった2つのスイーツを、彼の元へと運んで行く。 テーブルに並べると、再び私にペコッと頭を下げ、フォークを持ち食べ始めていった。 私は自分の持ち場に戻り、チラチラと視線を送りながら彼の存在を気にかけていた。 男性が一人でやって来るのは、シャンティでは珍しいことだったから。 少しして食べ終わったのか、男性はお会計をしにレジの前へ。 お代を頂き、今度は私が頭を下げる。 「ありがとうございました!」 すぐに帰るかと思いきや、彼はその場に立ち、私を見つめ口を開いた。 「あの、ここに、加瀬恭一さんっていらっしゃいますか?」 …え? 思わぬ質問に、目を見開いた。が、すぐにコクンと頷く。 「はい、ここのオーナーです」 「…あの、お仕事中申し訳ないんですが、少し話をさせてもらうことってできますか?長谷川さんの紹介でと伝えてもらえると、話は早いかと思うんですが」 「あ、はい。わかりました!今、声かけてきてみます。少しお待ちください」 私は急いでお店から厨房へ向かった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

130人が本棚に入れています
本棚に追加