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コーヒーを2人の前に出し終えた私は、恭に合図してお店へと戻っていった。
ずいぶん長い時間話をしていたようで、今井さんが店を後にしたのは午後5時を回るころだった。
その日の夕食。
恭から意外な話を聞かされる。
「来週から、うちにパティシエが1人手伝いに来てくれることになった」
「「えぇ!?」」
晋くんと龍くんは同時に声を上げた。
私はすぐに内容を察し、それは今井さんに違いないと確信した。
「ちょ、ちょっと待てよ!それって、どこのどいつだよ!?」
「俺が世話になってた長谷川さんのとこにいたらしくてな。来年、店を出すらしい。うちでパティシエを募集してることを話たら、シャンティみたいなカフェのある店でもぜひ働いてみたいと言ってくれたんだ。短期間ではあるが、こちらからお願いした」
そうなんだ。…ってことは、少しの間だけってことなのかな。
「そんなのダメに決まってるだろ!」
晋くんは勢いよく椅子から立ち上がった。
「シャンティで次にパティシエとして働くのは、この俺だ!」
「…お前はもう働いてるのと同じようなもんだろ」
「そうじゃなくて、パティシエとしてだって!」
「晋兄やめなよ。だって、ずっとうちで募集してた念願のパティシエなわけだし。少しは恭兄だって楽になるじゃん。…お店出すって、いつまでうちにいてくれるの?」
「はっきり決めてはいないが、まぁ、向こうがいてくれるならいてくれるまで」
3人の話が進むなか、私はどうしても気になってしまい、そぉっと恭に声かけた。
「…あの~…」
「ん?」
恭が私に顔を向けてくる。
「今井さんは…、その、住み込み希望とかでは…ないんですかね?」
その問いかけに、皆が目を大きくして私を見つめてきた。
あ、あれ?…やっぱり私、気まずいこと聞いちゃった?
目を泳がせていると、その空気を破ったのは恭の笑い声だった。
「アハハ!そうか。柚花の気になるとこはそこか」
だ、だって!
もし住み込みでってことだったら、私は一体どうなっちゃうんだ!?
「柚ちゃんは恭兄の部屋に行ったらいいんじゃない?」
そう言ってクスクス笑うのは龍くん。
「な、何を言って…」
「んなのダメに決まってんだろ!」
私が顔を真っ赤にして言い返すのと同時に声を上げたのは晋くん。
「柚に何かあったらどうすんだ!?」
何かあったらって…、晋くん、それは一体何ですか?
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