第5話

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すぐに、私の胸はしめつけられていった。 それに気づかれないよう、私も恭から視線を外し、スクリーンを見つめる。 その胸は、どんどん複雑な音を奏で始めていた。 ただ、後悔ばかりで。 何も考えずに口走ってしまったことを、悔やむばかりで…。 …歳が、バレた。 きっと、何度誤魔化そうとしても無駄。恭はすでに、嘘だと気づいてるみたいだった。 …どうしよう。 19歳だと知られて、何か、大変なことになったりしないだろうか。 恭は今、何を思っているのだろう。 だったらこの際、全てを話してしまおうか。 過去の自分のことを、全て。 そんな思いをつのらせては、心の中で唇を噛み締め首を振っていた。 …言えない。 言いたくない。思い出したくもない! まだ、本当の歳がバレただけ。 ただ、21が19だったってだけのこと。 そうでしょ? 2歳サバ読んでたってだけで、大したことないはず。 それだけで、いいんじゃない? っていうか、それだけで話しは終わるかもしれないし。 …そうだよね? 初めての映画だというのに、その内容は全く頭に入らず、何が映し出されているのかもわからなかった。 この後どうすればいいのか、ひたすらそのことだけを考えていたのだった。 映画のエンディングを迎えたのか、観客たちはそれぞれ立ち上がり、その場を後にしていく。 私はハッとして、ゆっくり恭へ顔を向けた。 すると恭は座席から立ち上がり、手を差し出してくる。 「行こうか」 私は目を泳がせながらその手を握り返し、コクンと頷いた。 恭の足取りは、とても落ち着いているように見えていた。 それなのに、手を引かれながらその少し後ろを歩く私の足取りは実に重い。 胸中穏やかではいられなかった。 どこへ行くのかと思っていると、たどり着いたところは人の多いエレベーターとは対照的な階段だった。 そこで恭が足を止める。 私を壁側にして、ゆっくり振り向いてきた。 そして目を閉じて大きくフゥと一息。 次に私を真っ直ぐ見つめると、軽く首を傾げた。 「名前は?」 意外な問いかけから始まったことに、胸がドクンと大きな音を立てる。 …どうして? なんで名前聞くの? 何て答えようかと考える間もなく、とっさに口は動いていた。 「…っ坂本、柚花」 そして息を吸う。 「歳は?」 「…………21」 「柚花、隠すな」
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