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その言葉にさらに胸が詰まり、恭と目を合わせていられず、パッと顔を反らしてしまった。
けれど恭の両手はすかさず伸びて、私の顔を包み込み、正面へと向き直らせていった。
顔をグッと近づけ、瞳を覗き込んでくる。
「19、なんだな?」
眉を寄せ、どこか不安げな顔を見せる恭を見て、勝手に目が熱くなっていた。
そんな顔して、聞かないで。
唇を噛み締め、込み上げそうな涙を必死に堪えた。
そして呟く。
「…ごめんなさい」
小さな声でそう言うと、頬を包んでいた恭の手は、私の体をガバッと抱き寄せた。
「泣きそうな顔するんじゃない。自分で嘘ついたんだろ?」
「…っ、…だって…。だって…」
「歳なんか誤魔化して、どうするんだ?」
そう言ってくる恭に対し、私は唇を尖らせて腕の中から顔を上げた。
「じ、じゃあ、もし正直に19だって言ってたら、恭は私をシャンティに置いてくれた!?」
強い眼差しでそう尋ねると、恭は一度瞬きし、片眉上げていく。
「…あのときの俺だったら、きっぱり断ってる」
…やっぱり。やっぱりそうなんだ。
「お前だって未成年の意味くらいはわかるはずだ」
それを聞いた瞬間、さらに自分の過去に蓋をしはじめていた。
ダメ。絶対言えない。
これ以上、話を広げちゃいけない。
「家は東京なんだろ?…親はどう…」
「私に家なんて、ない」
恭の言葉を、すぐに遮った。
そして真っ直ぐ瞳を見上げ、一度深く息をし、思いを口にする。
「家なんてない。…だから、…だからあのときの私は置いてもらうことに必死だった。お金もなくて、シャンティ以外にどこも行けるとこがなかった。どうしても、いさせてほしかった。…東京に戻っても、私の家なんて、ないんです」
そこまで言って、恭の眼差しから視線を外した。
…これは、嘘じゃない。
本当に、自分の居場所なんてなかった。
だから、同じこと。
嘘じゃない。
まるで自分に言い聞かせるように、何度も胸の中で呟いていた。
次に恭からどんな言葉がかけられるのか、胸を締め付けながらその場に立っているしかなかった。
しばらくして、再び頬を包み込んでくる恭の手が、私の顔を上げていく。
目が合うと、どこか寂しそうな表情を見せながらもクスッと笑った。
「今の俺は、…出ていけなんて言うつもり、ないからな」
その言葉に、またも目が熱くなる。
涙が溢れてしまいそうで、恭にすぐ抱きつき、胸元へ顔を埋めた。
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