130人が本棚に入れています
本棚に追加
さらに優しい声が響いてくる。
「ただ、お前のことが知りたかった。それだけだ」
そしてゆっくりと、私の頭を撫でてくるのがわかった。
堪えきれなくなった涙が、私の頬を伝う。
その優しい声は、私を喜ばせてくれたのと同時に、胸の中をグサリと突き刺してきたから。
『お前のことが知りたい』
うれしいはずなのに、悲しくて…。
大好きな人に全てをさらけ出して向き合えないことが、ここまでつらいだなんて思わなかった。
いつだか、同じように感じたときがあったよね。
…たしか、エリさんに初めて会ったときだったっけ。
自分は嘘の固まりで、好きになってもらう資格なんてないんだって、思ったんだった。
あのときから私、何にも変わってない。
本当の歳がバレても、恭に知りたいと言われても、それでさえ過去のことをいまだ打ち明ける気になれない自分がいる。
いろんな思いが胸の中を駆け回り、なかなか涙が止まらない。
それに気づいたのか、恭は私の顔を覗きこみ、手で涙を拭っていった。
「泣きすぎ」
そしてクスクス笑う。
その向けられた笑顔を、私はジッと見つめた。
…ごめんなさい。
言えなくて、ごめんなさい。
何度も何度も胸の中で繰り返す。
すると、恭もしばらく黙って私を見つめていた。
その空気を先に破ったのは、恭だった。
私の肩に手を乗せて、フゥと大きく一息ついてくる。
「…俺の直感は、大体当たってたってわけだ」
「…へ?」
直感?何それ?
「まぁ、初対面のときにすでに子供と感じてたくらいだからなぁ…」
「え!?子供!?」
「だが、19ってどうだ?本当に離れすぎだろ。…一歩間違えれば犯罪の香りがしてきそうな…」
「…あの…、それって、心の声ですか?それとも、私に話してるんですかね?」
そう言って顔を覗き込むと、恭は私にやれやれといった表情を見せてきた。
「ったく。…お前のせいで頭使ったせいか腹へった。どこかでお昼食べてこよう」
そしてクルッと向きを変えていき、足を進め始める。
私はその恭の背中を見つめ、いまだ複雑な胸の中で唇を噛み締めた。
すると急に立ち止まり、こちらへ振り返ってきた。
再び目が合うと、ゆっくり口を開いてきた。
「…俺は、お前がいくつだろうと、どこの誰であろうと、好きな気持ちに変わりはないからな」
そして、真っ直ぐ私に手を差し出してきた。
「…ほら、行こう」
最初のコメントを投稿しよう!