109人が本棚に入れています
本棚に追加
その言葉に、お店の中が一瞬にして沈黙になった。
自分の鼓動がやけに大きく感じられて仕方ない。
目の乾きを覚え、私は何度も瞬きを繰り返した。
「…え?どういうこと?…ごめん。俺、全く話が見えないんだけど」
そう言って龍くんは困惑ぎみに目を泳がせ、私を見つめてきた。
今までにないその眼差しに、目を合わせていられず顔を伏せ、唇を噛み締める。
あぁ、…私、…なんてことしてるんだろう。
昨日といい今日といい、罪悪感で堪らない。
私を快く受け入れてくれた皆を、ここまで困らせてしまうなんて…。
心から申し訳ない思いが込み上げてくる。
晋くんは一度私へ振り向いた後、再び坂本へ声をかけていった。
「っ…出てってくれ!」
「…申し訳ありませんが、晋一様。最初からご説明しなければなりませんか?」
その言葉に、私の体がビクッと反応してしまった。
慌てて顔を上げ、坂本を見つめる。
やだ、やめて。
胸の中が、叫びだす。
それでも晋くんは、坂本の言葉に強く返していった。
「そんなの聞く必要はない。柚はシャンティの大事な家族だ!柚に帰る意思がないのなら、ずっとここに…」
途中まで話したところで、坂本がクスッと笑い出した。
「…っ、何がおかしい!?」
「申し訳ありません。…晋一様は、柚花様のことをどこまでご存知でいらっしゃいますか?全てをご理解の上、それで家族とおっしゃっているのですか?」
「何っ!?」
そう反応すると晋くんは足を運び、坂本に食って掛かろうとした。
龍くんが慌てて前に出て、晋くんを止めに入る。
「晋兄、落ち着けって!」
私はその様子を、見届けることしかできずにいた。
足が全く動かなくて、どうすればいいのかわからなくて。とっさに手を握り締めていた。
すると、私の後ろから大きな声が響いた。
「お前ら、何でかい声出してんだ!」
その声に私の体はビクッと反応し、再び硬直する。
晋くんと龍くんは、私の後ろにいるのであろう恭の方へ、すぐに視線を運んだ。
そして坂本もまた、同じように顔を上げる。
私は、振り向くことが出来なかった。
ただその場で、真っ直ぐ顔を上げていた。
何かを見つめるわけでもなく。
「…なんだ?…どうかしたのか?」
次の恭の声を聞いて、私は大きく息を吸い込み、ゆっくり目を閉じていった。
いかなることがあろうと、涙を流さぬようにと言い聞かせながら。
最初のコメントを投稿しよう!