第6話

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「…あなたが、加瀬恭一様ですね?」 「……そうですが、…あなたは?」 「私は、大河内家に仕えます、柚花様の世話役でございます」 坂本の言葉を耳にして、今度はゆっくり目を開けていった。 まず見えたのは、晋くんと龍くんの表情。 2人とも、何を思っているのか。お互いに目を泳がせ、静かに坂本の話に耳を傾けているようだった。 その坂本は、真っ直ぐ私の後ろへ視線を注いでいた。 「…大河内…?」 微かに呟く恭の声が、私の元へ流れてくる。 今更後悔しても、もう、どうにもならない。 全てを話さなかった、自分が悪い。 ここで涙したって、何も変わらない。 そんな思いを胸に、私も静かに話を聞いているしかなかった。 「恭一様は、ここのオーナー様でございますね?…まず、柚花様を今日までお預かりして頂き、大河内家を代表しまして心よりお礼申し上げます。どのようなご縁があったかは存じませんが、何よりもお元気な柚花様の姿に、安心致しました」 そう言って、坂本は深々と頭を下げた。 「ですが、今まで大河内家では柚花様の行方を必死に捜索して参りました。そしてやっと本日、ここへたどり着いた状態であります。申し訳ありませんが、このお礼は後にさせて頂きますので。まずは柚花様をお屋敷へ」 そして坂本が私へ視線を運び、見つめてくる。 私は反射的に、強く坂本を見つめ返していた。 それでも頭の中は恭のことばかりで、はたしてどんな返しをするのだろうかと思いながら、私はゆっくり息をしていた。 でも、すぐに返される言葉はなくて、そのままお店の中は静かな空気が流れていった。 息が詰まりそうだった。 坂本へ向けていたはずの強い眼差しは、いつの間にか力を無くし、瞼が塞ぎがちになっていく。 とても長い沈黙に思えて仕方なかった。 そんな空気を変えたのは、晋くんの声だった。 「おい、勝手に柚を連れていくなよ!さっきから聞いてれば必死に捜索しただの、やっとたどり着いただの…。別にお前らのことなんか聞いてねぇっての!」 「おい、晋兄…」 「柚がここへ来たのは柚の意思だ。ここを出るときも、柚の意思がなきゃ俺は納得しないからな」 そう言って、晋くんは坂本を睨みつけていた。 龍くんは晋くんの体を押さえるも、顔つきは晋くんと変わらずで。 私はそんな2人に、何度も心の中で「ありがとう」と「ごめんなさい」を繰り返し呟いていた。
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