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そんな中、坂本はどこか呆れたように軽く息をついた。
「先程もお聞きしましたが、あなた方はどこまでご存知なのですか?」
その問いかけに、私はすぐさま反応して坂本へ顔を上げた。
「柚花様のお立場を、お分かりでしょうか?」
次に、心の中が乱れ始めていく。
やめて。それ以上は…!
「柚花様は、大河内家にとってとても大切なお方です。長きに渡って代々受け継がれてきた『大河内屋』の後を継ぐ長女であられます。今年二十歳を迎え、じきに跡取りとしての使命を司るのです」
躊躇いもなく淡々と語る坂本に、私は体を前のめりにして一歩踏み出していた。
「…っ…二十歳?」
困惑したような晋くんや龍くんの表情を見ては、目に力を入れ坂本を見つめた。
心は焦っていた。
お願いだから、もうやめて。
坂本を、止めなきゃ。
私以上に、皆を混乱させちゃダメ。
こんなに困らせちゃ、絶対ダメ。
「そしてさらには、『大河内屋』を繁栄させるべくして素晴らしいご縁談もすでに決まっておられ…」
「坂本、やめなさいっ!」
私の声が、今ある空気をピシッと遮断させた。
皆の視線は、一斉に私へ。
きっと後ろで、恭も見ている。
そんな気配を感じながら、私は大きく深呼吸した。
真っ直ぐ坂本を見つめる眼差しに、強い思いを込めて。
ここにいる私の大切な人たちに、シャンティに、これ以上大河内家が関わってはならない。
皆を困らせるだけ。
余計な面倒をかけるだけ。
それに、きっと外には坂本以外の者たちも来ているはず。
変な話が出回ってはいけない。
坂本は、私が帰ればそれでいいんでしょ?
静かな店内なのに、私の心はうるさいぐらいに波打って、手に汗握っていた。
一度ゴクンと息を飲み込み、ゆっくり瞬きした後、足を前へ踏み出した。
「…っ柚!?」
晋くんが眉間にシワを寄せ、眉を下げては私を見つめてくる。
龍くんも同じだった。
胸の中には感謝の気持ちでいっぱいで、ついつい足を止めてしまう自分がいた。
なんとか歯を食い縛り、涙堪えていた。
2人から視線を外しては、足を出して再び前へ。
止まってはダメ。
これ以上、皆に甘えてはダメ。
自分から出て行かなければ…。
そう心に声をかけたのに。
「………柚花…」
微かに聞こえた愛しい声に、体をギュッと縄で縛り付けられたような感覚に陥ってしまうと、足が勝手に止まっていた。
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