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せっかく堪えた涙が簡単に零れてしまいそうで、その場ですぐに瞳を閉じた。
あまりに苦しくて、微かに体が震え出す。
顔を伏せ、込み上げてくる熱い感情をなんとか必死に抑え込もうとした。
息を整え、手に力握った。
本当は、振り返りたい。
恭を見て、駆け寄って、抱き締めたい。
ずっとずっと、そばにいたい。
でもそれは、今は絶対してはいけない。
弱い自分を払い除けるため、唇を噛むことで一喝する。
ゆっくり目を開け、顔を上げた。
真っ直ぐ先を見つめ、大きく息を吸う。
そして、心の中から恭に話しかけた。どうか伝わってと、願いながら。
私、恭が大好き。
誰かを好きになる気持ちを教えてくれてありがとう。
本当は、もっとずっとそばにいたかった。
一緒に、いたかった。
決してこの過ごした短い時間に嘘も偽りもないんだということを、わかってほしい。
大好きだからこそ離れるんだということを、わかってほしい。
それを証明できるように、けじめ、つけてくるから。
足を上げると、私は真っ直ぐシャンティの入り口へと向かった。
止まっていた空気の流れを作り、坂本の横を抜け、ドアに手をかける。
後ろから晋くんや龍くんの声が聞こえたけど、次は足が止まることはなかった。
そして、シャンティから外へ。
外の風が私の顔を撫でた瞬間、一気に瞼から力が抜け、堪えていた涙が頬を伝った。
それでも私は歩き続け、振り返ることはしなかった。
家の者が、車のドアを開けて待っている。
そこへ迷わず乗り込み、シャンティから目を反らしたまま座り込んだ。
すぐに車は走りだし、そこから立ち去ったのだった。
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