109人が本棚に入れています
本棚に追加
どれくらい涙を流し、顔を覆っていたんだろう。
気づけば窓から見える風景は真っ暗。
でも、そこが馴染みのある場所だとすぐに分かった。
決して戻りたくなかった鳥籠が、視線の先に姿を現した。
車は大河内家の中へ。
玄関前に止まると坂本の代わりの運転手はすぐに降りて、私側のドアを開けた。
涙を拭い、フゥと大きく息を吐き、ゆっくりそこから降り立った。
頭の中は、真っ白だった。
家の中は出ていったあの日と何も変わらず、手伝いたちがそれぞれの仕事についていた。
私を見ては立ち止まり、ペコッと頭を下げてくる。
あの日までは妙に腹立たしかったはずなのに、なぜだかもう、全てがとうでもいいことのように思えてならなかった。
さっきの運転手が、声をかけてくる。
「ご主人様と奥様がお待ちです」
そして私を親の元へと誘導してきた。
きっとここは、避けては通れない。
顔を合わせたくなくても、どうにもならない道なんだろう。
そう胸の中で呟き、またも流れてきた涙を拭っていた。
通されたダイニングでは食事を取っていたのか、お父さんにお母さん、椿も椅子に腰掛けていた。
入ってきた私を見て、すぐにお父さんが立ち上がる。
私の目の前に来たかと思うと、すぐに手を上げ、頬をバチンッと叩いてきた。
とっさにその頬を押さえ顔を上げると、お父さんは私をきつい視線で流し、すぐに部屋から出ていったのだった。
体から力が抜け、顔を伏せるとさらに涙が零れていく。
声を出して泣いてしまうのだけは避けようとしていると、次に動いたのはお母さんだった。
椅子から立ち上がり、私の前へ。
「いったいその格好は何ですか?」
シャンティの制服を着たままだったことに今気がついた。
私はお母さんから顔を反らし、何も返さずにいた。
「…本当に、呆れてしまう」
そう言葉を残すと、お母さんもまた、部屋から出ていった。
おかしくなりそうだった。
ついさっきまでシャンティにいたのに、自由だったのに。
私っていったい、何なんだろう。
何をどうがんばっても、自分の将来を変えることはできないの?
どうしようもない思いに打ちのめされてしまった私は、かつての自分の部屋へ急いで足を運んだ。
思い切りドアを閉め、ベッドの上に飛び込んだ。
全てを遮断させたくて、お布団を被さった。
最初のコメントを投稿しよう!