第6話

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どれくらい涙を流し、顔を覆っていたんだろう。 気づけば窓から見える風景は真っ暗。 でも、そこが馴染みのある場所だとすぐに分かった。 決して戻りたくなかった鳥籠が、視線の先に姿を現した。 車は大河内家の中へ。 玄関前に止まると坂本の代わりの運転手はすぐに降りて、私側のドアを開けた。 涙を拭い、フゥと大きく息を吐き、ゆっくりそこから降り立った。 頭の中は、真っ白だった。 家の中は出ていったあの日と何も変わらず、手伝いたちがそれぞれの仕事についていた。 私を見ては立ち止まり、ペコッと頭を下げてくる。 あの日までは妙に腹立たしかったはずなのに、なぜだかもう、全てがとうでもいいことのように思えてならなかった。 さっきの運転手が、声をかけてくる。 「ご主人様と奥様がお待ちです」 そして私を親の元へと誘導してきた。 きっとここは、避けては通れない。 顔を合わせたくなくても、どうにもならない道なんだろう。 そう胸の中で呟き、またも流れてきた涙を拭っていた。 通されたダイニングでは食事を取っていたのか、お父さんにお母さん、椿も椅子に腰掛けていた。 入ってきた私を見て、すぐにお父さんが立ち上がる。 私の目の前に来たかと思うと、すぐに手を上げ、頬をバチンッと叩いてきた。 とっさにその頬を押さえ顔を上げると、お父さんは私をきつい視線で流し、すぐに部屋から出ていったのだった。 体から力が抜け、顔を伏せるとさらに涙が零れていく。 声を出して泣いてしまうのだけは避けようとしていると、次に動いたのはお母さんだった。 椅子から立ち上がり、私の前へ。 「いったいその格好は何ですか?」 シャンティの制服を着たままだったことに今気がついた。 私はお母さんから顔を反らし、何も返さずにいた。 「…本当に、呆れてしまう」 そう言葉を残すと、お母さんもまた、部屋から出ていった。 おかしくなりそうだった。 ついさっきまでシャンティにいたのに、自由だったのに。 私っていったい、何なんだろう。 何をどうがんばっても、自分の将来を変えることはできないの? どうしようもない思いに打ちのめされてしまった私は、かつての自分の部屋へ急いで足を運んだ。 思い切りドアを閉め、ベッドの上に飛び込んだ。 全てを遮断させたくて、お布団を被さった。
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