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これからのことを考えなくちゃ。
そう思っているのに、さっき焼き付いたお父さんとお母さんの顔がチラついてくる。
頭が全く働かなかった。
その次には、シャンティの皆のことばかりを浮かばせていた。
今さら、どうなっているかなんて考えたって仕方ないのに。
とめどなく流れる涙がいつ止まったのか、眠りから覚めてもその答えはわからなかった。
瞼は重く腫れて、脱力感が半端ない。
ベッドに横になったまま起き上がれずにいた。
そんなとき、部屋がコンコンとノックされる。
「柚花様。おはようございます」
この声は坂本だ。
私は微動だにせず、聞き流していた。
「お部屋に入ってもよろしいでしょうか」
その問いかけにも無視し続けていると、ガチャッとドアが開くのがわかった。
「ご朝食の準備が出来ております」
坂本の声が近くまでやってきても、お布団から顔を出そうなんて思えなかった。
早く、どこかへ行って。
心の中でそう呟く。
「…昨日は、大変お疲れ様でした。もしお体の調子がすぐれないようでしたら、お食事はこちらに運ばせますので。…それとひとつ、お伝えします。…恭一様ですが…」
その名を耳にした瞬間、私は思い切りお布団をどかし、体を起き上がらせた。
恭が、恭が何!?
必死な思いで目を大きくさせ見上げると、坂本は私を見て静かに息をついた。
そして目を反らす。
「私の判断ではありますが…、ご主人様や奥様には何も伝えない方がよろしいかと思い、内密にしてございます」
「…え?」
「どうか、恭一様のことは一刻も早くお忘れになった方がよろしいかと…。来週にも、高遠家とのお食事会が設けられる手配になっておりますので」
「そ、そんな…」
帰ってきて、もうそんな話になっているの?
家を出た意味なんて、無かったってこと?
あまりの衝撃に、言葉を失ってしまう。
「恭一様にも全てお伝えして参りました。恐らく、二度と会うことは…」
「うるさい!やめて!」
そばにあった枕を、坂本に強く投げつけた。
もう、自分に残された道はひとつしかないの?
このまま全て成り行きに身を任せるしかないの?
私、歯食いしばって、シャンティから出てきたんでしょ?
勢いよくベッドから降りると、その足で自分の部屋を後にした。
噴き出す思いを胸に、両親がいるであろうダイニングへ向かった。
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