第6話

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足元にスッと穴が開き、そこから奈落の底へ突き落とされたかのような感覚に陥っていく。 重力に逆らえずその場にしゃがみそうになっていると、それよりも先に持っていた菜箸が手からすり抜け、床に落ちていた。 その音で我に返り、慌てて菜箸を拾い上げる。 そして、床を見つめていた。目を見開いたまま。 「…柚」 晋くんの呼び声に、体がビクッと反応する。 そっと顔を上げると、晋くんの真っ直ぐな眼差しが注がれていた。 何から何を話して聞けばいいのか全く分からず、頭が働かない。 目を泳がせていると、晋くんが続けてきた。 「…やっぱり、そうなのか」 私は痛む胸を手で押さえ、唇を噛み締めた。 すると晋くんは、再びフゥと一息ついて、視線を下へ。 「柚のこと、探してた」 「…え?」 続くその言葉に、胸の中で大きくドキンッと音が響いた。 「駅で…探してた」 …うそ。 ま、待って。 「駅って、…どこの?」 震える声で、聞き返す。 「………すぐそこ」 晋くんはどこか躊躇ったのか、顔を下へ向けたまま小さく答えてきた。 それを聞いた私はすぐに息苦しくなり、思わず口元に手を運んでいた。 …すぐそこって…。 目の前が真っ暗になっていくようで、何度も何度も瞬きしていた。 「…ごめん。俺まだよく理解してねぇんだけど」 …理解していない? え?…晋くんはいったい、どこまで知っているの? 私は一度落ち着かなければと、ゴクンと息を飲み込んだ。 そして気力を振り絞り、声を出す。 「…晋くんは駅で…、何を見たの?」 「…声、かけられた。人を探してるって写真見せられて、名前は大河内柚花って…」 「………そ、それで…、晋くんは…何て…?」 声がさらに震える。 「…知らないってだけ…。余計なことは、何も言ってない。たぶん、気づかれてはいないと思う」 その言葉に、私は目をギュッと閉じ両手で顔を覆った。 「…ごめんなさい。……っごめんなさい」 涙が溢れてしまいそうになるのを必死で堪える。 すると、晋くんが近づいてくるのがわかった。 私の手首を掴んでくる。 「なぁ、柚。俺にはよくわかんねぇけど、帰る家があるってことなんだろ?恭兄は知って…」 「恭には言わないで!」 それは、反射的だった。 覆っていた手を下げ、晋くんを見上げて訴えていた。 …あぁ、なんて自分勝手な私なんだろう。
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