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私はその何度聞いてきたかわからない話を、自然と唇を噛み締めながら、ただ黙って聞いていた。
もうこれ以上、どうにもならない。
心のなかは、そんな思いで埋め尽くされていく。
再び静かな空気が流れ始めていた。
このまま、幕を閉じていくのだろう。
そう思ったとき。
恭の声は柔らかく、けれどもしっかりと、丁寧に響いていった。
「大河内屋が今まで繁栄してきたのは、すべて、しきたりのおかげだと思っていらっしゃるのですか?」
その言葉に、お父さんがゆっくりと顔を上げる。
「…何が言いたい?」
「今の大河内屋に必要なのは、しきたりで、柚花さんに跡を継がせることですか?」
お父さんがまたも顔をしかめた。
それでも恭は、話をやめることはしなかった。
「…私の店は、もともと両親の店でした。すでにその親は何年も前に事故で亡くなり、そのとき一度、店の明かりが消えています。
それまで全く跡を継ぐことなんて考えていなかったんですが、その明かりが消えた店を前に、胸が苦しくなりました。このままでいいのかって、悩みに悩んで…。
そんなとき、1人の女性が私に教えてくれたんです。店が、俺を必要としていると。それを自分自身も感じとることができたから、継ぐことを決心しました。
そして再び店に明かりをつけることができたのは、二年前です」
その話を聞いて、私の瞳にはシャンティの前にいるかのような光景が映っていた。
自然と涙が滲んでくる。
「親の店、そんな意識で再開したのですが、苦難ばかりでした。親と同じことをしていても、昔の賑やかなシャンティには戻ってくれず…。
恥ずかしながら、そんなの当たり前だと気づいたのは、再開してからしばらく経ったころでした。
時代は、いつまでも同じじゃない。人も変わればニーズも変わる。売るものも売れるものも、時と共に変化する。それはきっと、大河内屋も同じはずです。呉服という、時代を象徴するものを扱ってきたのだから尚のことだと思います」
「っだから何だと言うんだ!?君にっ…、大河内屋の何がわかる!?」
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