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「…たしかに俺は、ただのパティシエです。店を持ってまだ日も浅い。ですが、1人の店主として言わせてください。
長い歴史があるならば、昔と今とで違うものがあるのでは?ここまで大河内屋が続いてきたのは、しきたりがあったからですか?しきたりが守られてきたからですか?
…きっと、そればかりじゃないはずです。その代その代で、時代の変化に柔軟に対応できてきたからこそではないでしょうか。私は、そう思います」
「…っ」
私は口を挟むことができず、お父さんと恭を交互に見つめ、会話を聞いていた。
異様な緊張感が漂っていて、見守ることしかできない自分だった。
恭は真っ直ぐお父さんを見つめ、お父さんもまた恭を鋭く見つめていた。
そんな2人に声を挟んだのは、意外にも、お母さんだった。
「宗助さん」
その呼び掛けに、お父さんが振り向いた。
「…もう、諦め時なのかもしれません」
「…っお前、何を言い出す!?」
お父さんと同じように、私も直ぐ様反応してしまった。
慌てて振り向くと、なんらいつもと変わらぬ表情のお母さんがそこにいる。
「…恭一さんの言っていること、とても身に沁みませんか?」
お母さんは、お父さんを見つめていた。
「たしかに時代はどんどん変わっていきます。今では日常的に着物を身に付ける方も少なくなり、その節目節目で大河内屋は立ち止まり、悩んで参りました。それでも代々の当主がなんとか繁栄を守ってきた大河内屋です。
はたして、これまでの繁栄をこのさき柚花に任せて維持していくことが出来るか否か。…私には、不安が残るばかりとしか思えません」
「っだから!だから昇くんが居るのだろう!彼には期待しているんだ。熱心に呉服の勉強もしてくれている。このまま彼に任せていれば…」
「それももう一度、考え直した方がよろしいのかと…」
「…何を言っているんだ!?考え直すことなどなにも…」
「坂本に、昇さんの回りを調べさせてほしいと頼まれ、許可を出していました」
「…っど、どういうことだ!?」
お父さんに続いて、私も頭が混乱していた。
…坂本が?
昇さんの、いったい何を調べたというのか。
お母さんが坂本に目で合図した。
その坂本は、前へ足を踏み出し口を開く。
「ここ最近の昇様のご様子を、陰からではありますが、調べさせて頂きました」
お父さんも私も、すぐに坂本を見つめた。
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